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カケスはほとんど初めて、富妃について考えた。嫌われてはいないと思う。カケスが会話の中心になると、彼女はニコニコ笑って聞いていた。控えめに視線をよこしながら、いつも輪の端っこで楽しそうに耳を傾けていた。
自信過剰と言われるかもしれないが、どちらかというと憎からず思われていると思っていたのだ。しかし何度も言うが、カケスの好みではなかったし、最近のカケスの頭の中は、神保のことでいっぱいだった。
富妃について考えるのが「ほとんど初めて」と言ったのは、一度だけ強い印象に残る出来事があったためだ。
新学期早々の三者面談。いつもより化粧の濃い一張羅の母と教室に向かったとき、入れ違いで富妃母子が教室から出てきた。
富妃の母は、清潔感があって控えめな雰囲気の富妃とは、似ても似つかない外見をしていた。カケスの母に負けず劣らずの濃い化粧と、派手なワンピース。ネイルにピアスに夜会巻き。強い香水の香り。美人だし、ブランドものを身に纏っているのに、どこかチープだった。水商売の匂いがした。
カケスの母と目が合うと、富妃の母は無表情のまま会釈した。カケスなど存在しないかのように、目もくれない。キャラが被った女同士の、無言のバチバチの構図であった。
母の機嫌が悪くなったのが空気で分かり、カケスはげんなりした。
それが「笹塚富妃」という名前を、カケスが意識した一幕だった。
あの時の富妃はどんな表情をしていただろうか? その後の、「カケスの母、若手女性教師を論破」事案に意識を持っていかれ、カケスは良く覚えていない。
いずれにせよ、その一件以降は特に何事もなく、カケスにとって富妃という存在は風景の一部と化していった。高校生になったら、名前すら忘れてしまう同窓生になっていただろう。
しかしここへ来て、なんだかとても気になる存在になってしまった。
(面倒くさいいなあ)
気になる存在が二人に増えてしまった。
雲一つない空を見上げ、カケスはまた一つ溜息をついた。
(カケス編、完)




