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第22話 グランド・オープン

鉄板の上で肉の脂が跳ね、白煙が視界を遮る。

「騎馬三。バーガー三、ジョルト三」

「アップ」

「アップ」


ティムは手元を見ない。左手で紙を広げ、滑ってきた肉を右手で包んで窓口へ押し出す。

オープンから六日目の夕刻。私は店舗の奥から、無言で作業を続ける少年たちを眺めていた。


六日前、グランドオープンの朝。U字通路に姿を見せたのは、路地裏時代の客数人と、前日のゲリラ販売の客だけだった。


「店長……全然客が来ませんね」

ティムたちが閑散とした前庭を見て顔を引きつらせる中、レオは鉄板の前に立ち続けていた。


「手順を身体に叩き込め」

客のいない前庭に向かって彼がオーダーを出し、少年たちが肉を焼き、パンに包む。それだけが延々と繰り返された。


翌日、屋根の排煙ダクトから吐き出される獣の脂の煙が、風に乗って街道へ流れた。

「よお、席はどこだ。馬はどこに繋ぎゃあいい?」

匂いに釣られて馬を進めてきたカウボーイが、窓口に顔を出す。

「うちは馬から降りる必要がありません。ご注文は?」


「……あ? じゃあ、その……バーガー? を一つだ。あ、いやまて、ポテトもつけてくれ」

そう言ってカウボーイは訝しげに鞍の上で革袋を漁り、硬貨を投げた。

直後、窓口から突き出された熱い紙包みを受け取り、首を傾げながら走り去っていく。


次の日も、やって来た客たちは一様に戸惑っていた。馬を降りようとしては窓口で止められ、注文を済ませて去っていく。


しかし、疲労しきった労働者たちにとって「馬を降りる手間すら不要」という事実は、抗いがたい魅力を持っていた。


『あそこの肉は、降りずに買える』

鉱山の飯場や野営の焚き火の前で広まった噂は、数日で伝播し客の振る舞いを徐々に変えた。


四日目、五日目。慣れた男たちはもう、馬を止めようとすらしない。

手綱を片手に持ち、もう片方の手にはあらかじめ小銭を握りしめて通路に乗り込んでくる。そして鞍の上で包みを破り、熱い肉に食らいつきながら街道へ戻っていくようになった。


そして六日目の今。

シフトを終えた鉱夫や牛追いたちが、次々とU字通路へ吸い込まれてくる。

先頭のカウボーイが馬の歩調を落とした。


「バーガーとジョルトだ。ええと、小銭は……」

男が泥だらけの手でポケットを探り、数枚の硬貨を木箱に落とす。


「ちょうどです」

チャリンと音が鳴るのと同時に、ティムが熱い紙包みと結露した瓶を突き出す。


「……なに? もう出来たのか」

男が間抜けな声を漏らして受け取った時、すでに後ろから来た荷馬車の馬が鼻先を押し付けていた。男は慌てて手綱を引き、街道へ駆け出していく。


「こっちは五人分! もちろんセットだ! チリもチーズもアリアリで頼むぜ! 早くしてくれよ!」

荷馬車の御者が怒鳴りながら銀貨を投げ込む。


「バーガー五チリチーズアリ、アップ! ポテト五、アップ! ジョルト五、アップ!」

厨房からの機械的な声と同時、ティムが五人分の紙包みと瓶を窓口へ突き出した。

「早えな!」


商品を受け取るなり馬を急がせる御者の背中に向かって、ティムが声を張り上げる。

「ソーダ瓶は返しに来いよ! 二セントと交換だ!」

客たちは鞍の上から硬貨を投げ込み、次々と去っていく。馬も、車輪も、人の流れも止めない。


そのシステムは街道の「住人たち」をいつの間にか飼い慣らし、そして銭を吸い上げた。


◇


七日目の朝。ダクトから煙は上がっていない。

前庭へ回ると、レオが黙々とU字通路の馬糞を片付けていた。


「今日はお休みだ」

私の顔を見るなり、彼はシャベルの手を止めた。

「あいつらも働き詰めだ。シフトの関係もあるし…人の増員も考えなきゃな…来週に向けて」


ひたすら銭を搾り取る悪魔のようなシステムを発明しておきながら、一方で店員は慮る。明らかに従業員に金をかけている。それも、まるで惜しくないかのように。

この男の考えていることは相変わらず私の理解の範疇を超える。


本題を切り出した。

「それで? この一週間でいくら残ったの」

「おう、その話だ……聞いて驚くな?」


そう言うなり、レオはシャベルを地面に突き刺すと、窓口の奥からずっしりと重い布袋を引っ張り出した。

結び目を解き、提供口のカウンターに中身をぶちまける。


ジャラジャラジャラッ!

硬く重い金属音がぶつかり合う、銀と銅の濁流。


油や泥、炭の粉がこびりついた無数の小銭が、朝の光を鈍く反射していた。

「売上二百五十ドル。諸経費を引いて、手元に残った純利益が百五十ドルだ。お嬢様への上前はそこから払うぜ。お嬢様にとっちゃ小銭かもしれんがな」


決して小銭ではない。それは労働者が、半年かけて稼ぎ出す金額。



私は、カウンターを埋め尽くす圧倒的な質量を見つめながら、目の前の男が作り上げた集金装置そのものに薄ら寒さを覚えていた。


彼は、これはシステムだと言っていた。

人を選ばない調理方法、レシピ、システム。

もし、これが街の中心部にできていたなら?

もし、他の街にまで広がったなら?


このままいけば、西部のすべてが飲み込まれる。

私はこのとき予感めいたものを感じていた。




――数日後、店舗が武装した何者かの襲撃を受けたと知らされるまでは。


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ああ、案の定襲われたか……
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