勇者ガチャの結果が悲しすぎるんだが!?
俺は周囲の異様な空気を感じながら、オメちゃんに小声で聞いた。
俺。
「なんで、勇者が宝くじみたいな形で決まるんだ?」
オメちゃん。
「誰もなりたくないからだ」
俺。
「え!?」
思わず大声が出た。
「勇者だぞ!?」
「伝説の職業だぞ!?」
「子供が憧れる職業ランキング1位だろ!?」
オメちゃん。
「この世界の子供は憧れてない」
俺。
「夢が無ぇ!!」
ニャルルが呆れたように串焼きをかじる。
ニャルル。
「勇者になると、強制的に魔王討伐に行かされるにゃ」
「魔王を討伐するまで帰って来れないにゃ」
俺。
「なにそれ」
「強制労働みたいじゃん」
オメちゃん。
「みたいじゃなくて、強制労働だ」
俺。
「…………」
オメちゃん。
「魔王が強すぎて誰も勝てない」
「だから誰も行きたくない」
「だから勇者ガチャ制度が作られた」
俺。
「夢の職業が、こっちでは最悪の職業かよ……」
俺の中で勇者のイメージが音を立てて崩れていく。
勇者。
希望の象徴。
世界を救う英雄。
そんなものだと思っていた。
実際は。
ブラック企業の辞令みたいな扱いだった。
その時だった。
司会者がマイクを握り締め、大きく叫んだ。
司会者。
「今年の勇者は~~!!」
会場の熱気が一気に高まる。
観客達は祈るように目を閉じる。
観客A。
「頼む、当たるな」
観客B。
「俺の名前を呼ぶなよ」
そんな空気が会場中を包んでいた。
司会者。
「この人だーーー!!!」
スポットライトが会場の一角を照らす。
そこにいたのは――
まさかの爺さんだった。
司会者。
「団子屋の~~源さんだ〜〜!!!」
巨大スクリーンに源さんの顔が映る。
会場がどよめく。
源さん。
立ち尽くす。
絶望。
顔面蒼白。
そして。
ぽろぽろと涙を流し始めた。
源さん。
「嫌じゃ~~!!」
「勇者なんかなりたくない!!」
「わしは団子焼いてるだけで幸せなんじゃ~~!!」
会場から拍手が起こる。
だが祝福ではない。
どちらかというと。
お別れ会だった。
観客A。
「源さん頑張れー!」
観客B。
「死ぬなよー!」
観客C。
「団子屋閉店だな」
俺。
「応援なのか煽ってるのかわからん」
司会者は満面の笑みを崩さない。
司会者。
「それでは源さんには、勇者の加護と勇者装備が贈呈されます!!」
神官達が勇者装備を運んでくる。
剣。
盾。
鎧。
マント。
完全に勇者セットだ。
しかし。
サイズが合わない。
全く合わない。
鎧はガバガバ。
マントは地面を引きずる。
剣は重すぎて持てない。
悲しい。
凄く悲しい光景だった。
俺。
「勇者って……いったい……」
* * *
数日後。
俺とニャルルとオメちゃんは、酒場に来ていた。
俺。
「なんかさ〜、源さん可哀想だったな……」
ニャルル。
「この時期の風物詩にゃ」
俺。
「風物詩で済ませるなよ」
酒場の中は賑わっていた。
その中で一際目立つ人物がいた。
源さんだった。
ジョッキを片手に、酒を浴びるように飲んでいる。
店員。
「源さん、もうやめとけよ」
「体に毒だぞ」
源さん。
「うるさい!!」
「これから死に行くんじゃ!!」
「酒ぐらい好きに飲ませろ!」
店員。
「もう歳なんだから、飲みすぎるなよ」
源さん。
「わかっとるわい!!」
少し間があった。
源さん。
「今日な……」
「常連さん達に店畳むって言ったんじゃ……」
店員。
「うん」
源さん。
「みんな泣いてくれたんじゃ……」
「源さんの団子食えなくなるの寂しいって……」
源さんは涙を拭った。
「50年団子焼いてきたんじゃ……」
「最近腰も悪くなってきたし……」
「そろそろ隠居して、のんびりしようと思ってたんじゃ……」
ジョッキを見つめる。
「なんで今さら魔王討伐なんじゃ〜〜!!」
「行きたくない!」
「死にたくない!」
俺。
「源さん、荒れてるな〜」
オメちゃん。
「勇者はみんな、あ〜なる」
俺。
「そうだろうな」
席につき、酒を飲み始める俺達。
すると。
バァン!!!
突然。
酒場の扉が、凄まじい音を立てて開いた。
店内が静まり返る。
入って来たのは。
数人の黒い制服を着た男達。
その先頭に立つリーダーが口を開いた。
ガレイル。
「ジジイ!!」
「てめぇ、こんな所で何してんだ!!」
源さん。
「ひぃ~~~!!」
ガレイル。
「魔王討伐の出発期限は、とっくに過ぎてるんだよ!!」
「なに、呑気に酒なんか飲んでやがる!」
源さん。
「許してくれぇぇぇ!!」
ガレイル。
「お前が魔王討伐行かないと、俺が上司に怒られるんだよ!」
店内が静まり返る。
椅子から転げ落ちて、怯える源さん。
ガレイル。
「おい」
「あいつを取り押さえろ」
兵士達が一斉に動いた。
源さん。
「離せぇぇ!!」
「わしは団子屋なんじゃぁぁ!!」
「勇者なんかやりたくないんじゃ〜!」
あっという間に確保される。
俺。
「完全に犯罪者扱いじゃん」
オメちゃん。
「逃亡罪だからな」
俺。
「せつない……」
ガレイルは、暴れて抵抗する源さんを見て、部下に向かって叫んだ。
ガレイル。
「埒が明かないな」
「おい、あれを持ってこい!!」
兵士A。
「まさか、焼印でしょうか?」
兵士B。
「ガレイル様、それはあまりにも……」
ガレイル。
「うるせー!!」
「コイツが魔王討伐行かないと」
「上司に怒られる」
「始末書書かされる」
「評価下がる」
「給料下がる」
「奥さんキレる」
「娘に無視される」
俺。
なんか急に親近感湧いた。
ガレイル。
「お前が行かないと、今度は俺が地獄なんだよ!!」
「いいからやれ!!」
兵士は苦い顔をしながら、赤く焼けた鉄印を持ってきた。
ジュウゥゥゥ……
源さん。
「嫌じゃぁぁぁ!!」
ガレイル。
「観念しろ!!」
兵士が肩に焼印を押し付ける。
源さん。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」
俺。
「おいおいおい!!」
「そこまでしなくても!?」
「てか、あれ何の焼印?」
オメちゃん。
「勇者強制執行の焼印だ」
俺。
「名前が怖ぇよ!!」
その時だった。
ヒヒ~~~ン!!
急に、外から馬の鳴き声が響いた。
全員が振り向く。
そして。
酒場の入口から。
優雅に歩いて来たのは――
ペガサスだった。
俺。
「やば!!」
「ペガサスじゃん!!」
「ガチ異世界じゃん!」
「てか、なんでこんなところに現れた?」
「どういうこと!?」
オメちゃん。
「勇者を強制的に連れていく執行人だ」
俺。
「いや……人じゃなくて馬だろ」
「てか、ペガサスの周辺、なんか変じゃね?」
ペガサスが歩いてくる。
通る周りの壁が曲がる。
机が捻じれる。
人が歪む。
俺。
「なんか、空間歪んでない?」
オメちゃん。
「ペガサスは空間干渉の力がある」
「その力で空も飛べる」
俺。
「へ〜」
「翼で空飛ぶんじゃないの?」
オメちゃん。
「あれは飾りみたいなものだ」
俺。
「……にわとりみたい」
「俺の異世界がどんどん崩れる……」
ペガサスは源さんの前で止まった。
源さん。
「嫌じゃぁぁぁ!!」
「わしは団子を焼きたいだけなんじゃぁぁ!!」
しかし。
ペガサスは源さんを咥え、自分の背中に乗せた。
ガレイル。
「おい、源さん」
「明日の朝7時が出発期限だからな!」
「絶対、遅れるなよ!」
次の瞬間。
空間がぐにゃりと歪む。
源さんの姿が消えた。
ペガサスも消えた。
静寂。
俺。
「……終わったな」
ニャルル。
「終わったにゃ」
オメちゃん。
「終わったな」
三人で黙って酒を飲んだ。
そして。
ふと気づく。
俺。
「あれ?」
「なんか源さんと一緒に、ちっちゃい女の子も飛び乗ってなかった?」
オメちゃん。
「乗ってたな」
ニャルル。
「乗ってたにゃ」
「頭イカれてるにゃ」
俺。
「なんかどっかで見た気がするんだよな……」




