念願の異世界お祭りデートだと思ったんだが!?
俺は自分ができる最高のキメ顔で話しかけた。
俺。
「綺麗なお姉さん、大丈夫ですか?」
「絶対助けるんで、安心してください」
完璧だった。
牢屋に囚われた金髪美女。
それを救う剣聖の俺。
これはどう考えても異世界救出イベントである。
ここで助ければ、感謝される。
もしかしたら。
「あなたは私の運命の人です」
くらい言われるかもしれない。
ところが。
金髪美女は何も答えなかった。
「……」
静かに本を読んでいる。
俺。
「あれ?聞こえなかったかな?」
「あの〜、大丈夫ですか?」
「助けましょ〜か〜?」
「……」
返事はない。
本のページをめくる音だけが、やけに大きく聞こえる。
俺。
生きてるよね?
屍じゃないよね?
「あの〜」
ようやく金髪美女が顔を上げた。
透き通るような白い肌。
整った顔立ち。
長い金髪。
まさに囚われの美女。
俺はすかさずキメ顔を作った。
「今、助けるんで安心してくださ――」
金髪美女。
「うるせ〜な〜!」
食い気味だった。
「今、本読んでるだろうが!」
「お前、脳みそ腐ってるのか?あ?」
「てか、口臭いんだよ!」
精神が崩壊するレベルの破壊力。
俺は崩れ落ち、膝をついた。
こ、怖い。
何これ?
精神干渉の魔法でも使ってるの?
破壊力が災害級なんだが。
俺はゆっくりオメちゃんを見た。
「……」
オメちゃんは無言だった。
俺。
「俺って、口臭い……?」
オメちゃん。
「臭い」
俺。
「即答やめろ!!」
俺は胸を押さえた。
「なんか救出イベントだと思ったら、突然精神攻撃の連続呪文を喰らったんだが……」
金髪美女は面倒くさそうに、ため息をついた。
金髪美女。
「お前、なんか勘違いしてるけど」
「私、望んでここにいるの」
俺。
「え?」
金髪美女。
「3食飯付き、風呂付き、家賃無料」
「最高の住環境でしょ?」
俺は牢屋の中を見た。
小さなベッド。
机。
本棚。
毛布。
水差し。
確かに。
思っていたより快適そうだった。
というか。
俺が泊まっている安宿より、少し広い気がする。
俺。
「あれ……?」
もしかして。
俺の方が生活レベル低くないか?
金髪美女は本を閉じ、俺をじろりと見た。
金髪美女。
「冒険者やってた時は最悪だった」
「1ヶ月以上歩きっぱなし」
「飯はまずい魔物の肉」
「風呂なんていつ入れるかわからない」
「そして何より、いつ死ぬかわからない」
淡々としているのに、言葉が重い。
金髪美女。
「だったら、契約社員として治癒師やってた方が安全で幸せなんだよ」
「わかる?」
俺は圧倒されて、気づいたら正座していた。
俺。
「……はい、わ、わかります…」
金髪美女は再び本を開いた。
金髪美女。
「だったら、さっさと帰れやぁぁぁぁ!!」
俺。
「はぃ〜〜〜〜!!」
俺はオメちゃんを抱えて、全力で店を飛び出した。
夢中で走って、気づいたら表通りに出ていた。
昼の陽射しがやけに眩しい。
俺。
「はぁ……はぁ……」
「あいつヤベ〜」
「とんでもないイカれ野郎に会っちまった」
オメちゃんが俺の腕の中で転がった。
オメちゃん。
「いや、普通だろ」
「冒険者なんていつも死と隣り合わせで、衣食住も確保されてない不安定な職業だからな」
俺。
「……頼む」
空を見上げた。
「俺の異世界を壊さないでくれ」
「現実を突きつけないでほしい」
オメちゃん。
「ここは架空の世界じゃない」
「マンガやアニメと違う」
「現実に存在する世界だ」
「いい加減慣れろ」
俺。
「いやだ〜〜〜〜!」
「俺は認めないぞ〜〜〜!」
「この異世界ファンタジーで、最高の人生を送るんだ〜〜!」
オメちゃん。
「別に異世界じゃなくても、元の世界でも最高の人生は送れるだろ」
俺はオメちゃんに、元の世界のつらさを懇々と語った。
満員電車。
終電。
バグ修正。
休日出勤。
人間関係。
何も起きない毎日。
俺がどれだけ異世界に憧れていたのか。
どれだけここに来たかったのか。
全部話した。
オメちゃんは最後まで聞いてから、短く言った。
オメちゃん。
「ま、頑張れ」
俺。
「軽いな!!」
その時だった。
ピロリロリン。
ピロリロリン。
昨日買った魔導端末が鳴った。
俺は慌てて取り出す。
俺。
「はい、もしもし?」
ニャルル。
『お前、来週の週末暇かにゃ?』
俺。
「なんで?」
「なんか嫌な予感するんだけど」
ニャルル。
『年に1回のお祭りがあるにゃ』
『ちょっと付き合うにゃ』
俺はオメちゃんを見た。
オメちゃん。
「嘘じゃない」
「来週、祭りはある」
俺は安心した。
俺。
「わかった」
ニャルル。
『じゃ〜、よろしくにゃ』
俺。
「ほ〜い」
通話が切れた。
俺は魔導端末を見つめる。
祭り。
ニャルル。
2人。
……これ。
デートでは?
デートだよね?
やったーーー!
俺はその場で小さくガッツポーズした。
だが。
すぐに冷静になる。
相手は整形獣人。
いや。
元人間。
しかも配信者。
素直に喜んでいいのだろうか。
俺。
「オメちゃん」
オメちゃん。
「なんだ」
俺。
「祭りってどんなことやるの?」
オメちゃん。
「出店が出たり、中央のスタジアムで催し物がある」
俺。
「へ〜、なんか面白そう」
オメちゃん。
「あんまり期待するなよ」
俺。
「……気をつけます」
* * *
祭り当日。
街は朝から別世界みたいだった。
大通りには色とりどりの旗が飾られ、屋台の煙があちこちから上がっている。
子供達が走り回り、商人が声を張り上げ、楽器を持った連中が陽気な曲を奏でていた。
俺。
「これだよ!」
「こういうのだよ!」
「異世界の祭りだァァァ!」
オメちゃん。
「簡単だな」
転がりながら言う。
だが俺は気にしない。
これだ。
俺が求めていた異世界は、こういう空気だ。
屋台。
笑い声。
知らない食べ物。
不思議な商品。
そして隣にはニャルル。
今日は配信機材を持っていない。
いつもの撮れ高を狙う顔ではなく、少し肩の力が抜けている。
俺。
「あれ?」
「今日は配信しないの?」
ニャルル。
串焼きを食べながら。
「今日は休みにゃ」
「なんでもやりすぎは体に毒にゃ」
俺。
「お前が言うと、なんか重みが違うな」
ニャルル。
「経験者は語るにゃ」
やめろ。
笑えない。
だが今日のニャルルは、どこか楽しそうだった。
手を引かれる。
ニャルル。
「さ、屋台を見るにゃ!」
俺。
「あ、ちょ、引っ張るな!」
俺はニャルルに連れられて、通りを歩いた。
焼き菓子。
串肉。
謎の青いジュース。
動く人形。
しゃべる石。
変なものだらけだ。
そんな中で、ひときわ目立つ屋台があった。
大きな透明の箱。
その中を、小さな光る何かが飛び回っている。
よく見ると。
小さなおじさんだった。
俺。
「……何これ?」
ニャルル。
「光るおじさんにゃ」
俺。
「は?」
「光るおじさん?」
箱の中で、小さなおじさん達がふわふわ飛んでいる。
全員笑顔。
全員中年。
しかもやたら眩しい。
俺。
「全然いらないんだが」
「こんなの誰が買うんだ?」
ニャルル。
「今、若い女の子に人気にゃ」
俺。
「なんで!?」
ニャルル。
「めちゃくちゃ褒めてくれるにゃ」
ニャルルは指で箱をつついた。
中のおじさんが光りながら叫ぶ。
光るおじさん。
『今日もかわいいねぇ!』
『その服すごく似合ってるよぉ』
『君なら出来るさ!』
ニャルル。
「自己肯定感爆上がりにゃ」
「私も持ってるにゃ」
俺。
「持ってるの!?」
光るおじさん達が満面の笑みでこっちを見る。
俺。
「自己肯定感……確かに嬉しいけど、おじさんに言われてもな〜」
「おじさんじゃなくて、美少女とかはいないの?」
ニャルル。
「いないにゃ」
「光るのはおっさんだけにゃ」
俺。
「どんな理屈だよ」
箱の中を見ながら首を傾げる。
「ん?」
「頭禿げてるから光るのか?」
ニャルル。
「禿げてなくても光るにゃ」
「いまだに生態は謎にゃ」
「本人達もわかってないにゃ」
俺。
「なんか、すごく、どうでもいい」
その後も俺達は祭りを回った。
変な食べ物を食べ。
妙な景品を見て。
ニャルルに無理やり謎のゲームをやらされ。
オメちゃんが景品扱いされかけた。
思っていたより楽しい。
いや。
かなり楽しい。
異世界に来てから理想が壊され続けていた俺だったが、この時間だけは素直に楽しかった。
ニャルル。
「そろそろ中央スタジアムに行くにゃ」
俺。
「なんかあるの?」
ニャルル。
「行けばわかるにゃ」
俺。
「その言い方、嫌な予感しかしないんだよな」
ニャルル。
「大丈夫にゃ」
「たぶん」
俺。
「たぶんって言った!」
俺達は人の流れに乗って、中央スタジアムへ向かった。
近づくにつれ、人の数がどんどん増えていく。
街中の人間が集まっているんじゃないかと思うほどだった。
スタジアムは巨大だった。
中央に広い舞台。
周囲にはぎっしりと観客席。
すでに満員に近い。
ステージではバンドライブが行われ、観客が歓声を上げている。
会場はとんでもない熱気だった。
俺。
「お〜!」
「なんか楽しいな!」
思わず笑った。
だが。
周囲の会話が、少しずつ耳に入ってくる。
男A。
「今日もこの日が来たな」
男B。
「ああ」
「毎年これが楽しみで生きてるようなもんだからな」
男A。
「でも、今年も俺の名前は呼ぶなよ……」
俺。
「なんか、みんな楽しそうなのに暗くない?」
ニャルル。
座席に腰を下ろしながら。
「メインイベント前だからにゃ」
俺。
「メインイベント?」
その時。
ステージ中央に司会者が現れた。
派手な衣装。
巨大なマイク。
満面の笑み。
会場の照明が一気に落ち、中央だけが眩しく照らされる。
司会者。
「レディースエン、ジェントルメン!」
「いよいよ本日のメインイベント!」
「年に1度の――」
「勇者ガチャを開催します!!」
会場は大きな歓声と、異常な熱気に包まれた。
俺。
「勇者ガチャ?」
「……ってなに?」




