憧れのポーションが、現実過ぎて悲しいんだが!
宝箱の中に、ジジイがいた。
机。
書類。
眼鏡。
どう見ても事務仕事中のジジイだった。
ジジイ。
「迷宮管理局です」
俺。
「誰だ、こいつはーーーー!!!!」
振り返る。
少し後ろで立っていたニャルルが、ジジイを見て固まっていた。
目が合う。
ニャルル。
「……終わったにゃ」
満面の笑み。
「じゃあ先帰るにゃ」
ダッ!!!
全力逃走。
ジジイ。
ため息。
杖の先端をクルッと回す。
光の輪がヒュンッと飛ぶ。
スポン。
ニャルル拘束。
クイッ。
ズザァァァ!!
床を滑って戻ってくるニャルル。
ニャルル。
「やめるにゃ!!今回は初犯にゃ!!」
俺。
「初犯!?」
コメント。
【常習犯】
【猫釣り】
【監査強い】
ニャルル。
「収益全部渡すにゃ!!」
ジジイ。
無言。
正座する。
俺。
ニャルル。
オメちゃん。
ジジイは淡々と書類をめくりながら、説明を始める。
「配信許可……未提出」ペラ。
「収益届け……未提出」ペラ。
「迷宮利用届け……未提出」ペラ。
誰も喋らなかった。
「以上3点の違反により、罰金42万」
ニャルル。
膝の上でぎゅっと拳を握る。
「耳も取れたにゃ」
「収益も消えたにゃ」
「最悪にゃ……」
ジジイ。
書類を閉じる。
俺たちを見る。
「規則です」
コメント。
【ざまあ】
【現実の壁】
【剣聖も払え】
【配信者の末路】
俺。
「コメントまで敵側!?」
オメちゃん。
「骨折り損だな」
【なんだかんだ神回】
【次回も期待】
【オメちゃんのファンになった】
* * *
ダンジョンを出て、表通りの焼肉屋に入った。
ニャルル。
「今日は、やけ食いにゃ!」
「今日は私の奢りにゃ!」
「二人とも気が済むまで食うにゃ!」
肉が焼ける音が響く。
ニャルル。
泣きながら焼肉を頬張る。
ビールを飲み干す。
俺。
ニャルルの耳を見る。
「耳……どうするの?」
ニャルル。
肉を口に運びながら。
「明日また美容整形行くにゃ」
俺。
「なんか、軽いな」
「ポーションで治らないの?」
ニャルル。
「整形は治らないにゃ」
「治るのは元の体だけにゃ」
俺。
「ま〜……そっか」
微妙な気持ちで肉を食う。
少し静かになる。
網の上で肉が弾ける。
俺。
「そういえば、ニャルルって」
「前世、何してたの?」
間があった。
ニャルル。
「Vライバーにゃ」
「登録者150万人くらいいたにゃ」
俺。
「え!? すごくね?」
「なんで、死んだ?」
ニャルル。
ビールを飲みながら答える。
「スロット耐久してたにゃ」
「3日寝なかったにゃ」
「……気づいたら死んでたにゃ」
俺。
「お前かァァァ!!!」
思わず立ち上がって指を差した。
「知ってるぞそれ!!」
「伝説のスロット配信者じゃないか!!」
「俺、その回リアタイで見てたわ!!」
ニャルル。
少し目を丸くする。
「奇遇にゃ」
俺。
「奇遇どころじゃない!!」
「……てか、すげ〜有名人じゃね〜か!」
ニャルル。
少し黙ってから、静かに言った。
「別にすごくないにゃ」
「頭悪くて、どの仕事も続かなかったにゃ」
「生きるためにライバーやってただけにゃ」
俺。
「お、おう……そうなのか」
返す言葉が見つからない。
「ほら、肉焼けてるぞ」
ニャルル。
肉を食べながら。
「稼ぎ方、これしか知らないにゃ」
俺。
「いや、加護使えば別の仕事だって出来るだろ」
ニャルル。
俺を見る。
「私の加護《動画編集》にゃ」
「編集速度50倍」
「サムネ作成、瞬殺」
「企画のアイデア、無限チート」
俺。
「……適職すぎるだろ」
ニャルル。
肉を箸で掴みながら。
「結局、前世と同じことしてるにゃ」
少し。
笑っていた。
* * *
焼肉屋の帰り道。
夜の街。
オメちゃんと歩く。
俺はゴブレンジャーのことを思い出していた。
あの致命傷が、ポーション一本で消えた。
俺。
「……やっぱすげぇな」
オメちゃん。
「何が」
俺。
「ポーションだよ!」
指を折り始める。
「怪我が治る」
「疲れが取れる」
「眠らなくていい」
「レベル上げ放題」
「これこそ異世界のアイテムって感じじゃん!」
テンションが上がる。
「俺さ〜、子供の頃ゲームやってて」
「ポーション飲んで全回復なんて」
「めちゃくちゃ便利じゃんって思ってたんだよね!」
オメちゃん。
「憧れはゲームの中だけにしとけ」
俺。
「いや、ここは異世界だぞ!」
「憧れるだろ!」
「今度ポーション買うの付き合ってよ」
オメちゃん。
「……あんまり期待するなよ」
俺。
「また、オメちゃんはそうゆうこと言う」
「期待するに決まってるだろ!」
「ポーション楽しみーー!!」
* * *
後日。
街の裏通り。
昼間なのに日当たりが悪い路地を歩く。
壁に寄りかかって瓶を持っている男性。
こちらを見た。
酔っ払い。
「ヒック、よ〜、にいちゃん、お前もポン中か?」
俺。
「昼間っから酔っ払ってるよ……」
オメちゃん。
黙って転がる。
俺。
「な〜、オメちゃん、なんでこんな裏通りなんだよ」
「もっと表の綺麗なお店行こうぜ」
オメちゃん。
「ポーションは裏通りにしか売ってない」
俺。
「そうなの?」
「でもなんかこの辺、ちょっとヤバい雰囲気だよね」
並ぶ店の看板。
《回復薬専門》
《毎日元気》
《人生変わります》
《初回半額》
俺。
「怪しい健康食品みたいだな……」
《回復薬専門》に入る。
静か。
思ったより静か。
客はまばら。
誰も喋らない。
目も合わせない。
突然。
バン!
ドアを勢いよく開けて入ってきた男A。
右腕を負傷している。
男A。
カウンターにお金を叩き付ける。
「オヤジ、いつものヤツくれ」
オヤジ。
無言で棚から瓶を渡す。
男A。
その場で飲む。
みるみる腕の傷が塞がっていった。
「は〜、たまんね〜」
「やっぱポーションって最高だな!」
男Bが入ってきた。
どこも怪我してなさそうだ。
男B。
「オヤジ、3本くれ」
受け取るなり、一気に飲み干す。
目を閉じる。
深く息を吐く。
「すぅ〜」
「は〜っ」
「やっぱ、たまんね〜わ!」
俺。
「……なんか変じゃない?」
オメちゃん。
「普通だ」
カウンターに、また別の男Cがやってきた。
目の血管が赤い。
手が少し震えていた。
オヤジが聞く。
「今日は何本だ?」
男C。
「まだ5本だ。最近効かなぇんだよ」
オヤジ。
「昨日も3本飲んでたろ?」
「その辺にしとけ」
男C。
ニタニタ笑いながら。
「効かねえから、1つ上にしてくれ」
オヤジ。
「知らねえぞ」
男C。
渡された瓶を一気に飲み干す。
飲んだ直後。
意識が飛ぶ。
倒れる。
オヤジ。
「おい、こいつ外に捨てとけ」
マッチョな男が後ろから出て来る。
倒れている男Cを持ち上げて、外に放り投げた。
俺。
「え?え?」
「ポーションてなんかヤバくない?」
「どうなってるの?」
オメちゃん。
「あいつら、ポーション依存だ」
「通称、ポン中」
「ポーションには回復と同時に、痛みを消すための快楽成分が含まれている」
「その快楽にハマって中毒になるやつが多いだ」
俺。
「なにそれ……」
「そんな現実的な設定いらないんだが…」
オメちゃん。
「だから期待するなって言ったろ」
ポーションが夢のアイテムなのは、ゲームの世界だけだった。
部屋の奥を見る。
小さな牢。
中に、金髪の女性が一人。
静かに本を読んでいた。
俺。
小声でオメちゃんに聞く。
「あれ、なに?」
「なんで牢屋に閉じ込められてるの?」
オメちゃん。
「あんま、見るな」
俺。
「……なんか、異世界ロマンスの匂いがプンプンするんだが!」
「オメちゃん、助けよう!」
オメちゃん
「……」




