念願の冒険者になったら、変な獣人に雇われたんだが!?
「うんめー!!」
ガンッ。
木製ジョッキを机へ置く。
夕方の酒場。
仕事終わりの冒険者や商人たちで賑わっている。
異世界に来て約3週間。
仕事して、飯を食って、風呂に入り、ぐっすり眠る。
人生が健康になっていた。
「仕事の後の酒って……
なんでこんな美味いんだ……」
机の上には——
オメちゃんが静かに転がる。
「おい」
「お前が異世界でやりたかったことはそれかよ」
俺は肉を頬張る。
「あ〜うるせ〜な〜」
「しょうがねぇだろ」
「冒険者ギルド登録には保証人が必要で」
「その保証人センターへの登録に、30万かかる」
「つまり……先に金を稼ぐしかなかったんだよ」
オメちゃん。
「もっと剣聖らしい仕事あるだろ」
俺。
「あ〜うるさいうるさい」
「金貯まるまでは畑仕事だ」
オメちゃん。
「元の世界でも出来ただろ」
沈黙。
酒を飲む。
「…………」
オメちゃん。
「転生者ってほんと変なヤツらばっかりだよな」
俺。
「一番オメちゃんに言われたくない言葉」
* * *
回想。異世界に来て、最初の2週間の話だ。
畑。
農場主。
「兄ちゃん今日も頼むわ!!」
俺。
「任せてください!」
鍬を持つ。
「必殺、ライトニング畑耕し!」
ザッ!!
ザッ!!
ザッ!!
農場主。
「おぉ〜、速ぇ!!」
「剣聖って便利だな!!」
オメちゃん。
「加護の使い方間違ってるだろ?」
荷運び。
耕作。
牛の世話。
異世界に来たのに。
やってることは、普通に農業だった。
でも。
少しだけ。
前の世界より楽しかった。
* * *
数週間後。
保証人センター。
受付が事務的に話す。
「登録料30万」
「確認しました」
「保証人登録完了です」
紙を受け取る。
震える。
「やっと……」
「やっと保証人登録出来た……!!」
オメちゃん。
「長かったな」
俺は、拳を握って叫んだ。
「これでギルド登録出来る!!」
「俺も念願の冒険者だ!!」
* * *
冒険者ギルド。
ギィィ……
扉を開くと、そこにはテンプレ通りのギルドがあった。
酒場。
掲示板。
受付。
完全に異世界。
「これこれ!これぞギルドって感じだよな!」
俺は感動していた。
受付嬢。
「保証人センターの登録を確認しました〜!」
「これで冒険者登録完了ですね」
「まずはEランクからだから、頑張ってね!」
冒険者カードを渡される。
《宮坂孝一》
《Eランク》
沈黙。
俺は、震えた。
「やったぁぁぁぁ!!」
「念願の冒険者だ!!」
「テンプレ通りEランクスタート!!」
「ゾクゾクする!!」
その時。
後ろから、かわいい声がした。
「おい」
「お前、暇かにゃ?」
振り返る。
いた。
そこには夢にまでみたあの存在が。
どんなファンタジーでも必ず出てくる、あれ。
猫耳。
超美少女。
尻尾。
完璧。
完璧だ!!
脳汁が止まらない!!
(キタキタキターー!!)
(異世界)
(美少女)
(獣人)
(猫耳)
(全部乗せ!!)
俺。
キメ顔。
「ふ……」
「この剣聖に何か用かな?」
猫耳。
俺を見る。
オメちゃんを見る。
指差す。
「用があるのはそっちの方にゃ」
沈黙。
俺。
「…………」
オメちゃん。
「嫌な予感しかしない」
猫耳が名刺を渡す。
【ダンジョン配信者】
【ニャルル・リゲット】
登録者。
68万人。
俺。
「多っ!!」
ニャルル。
「企画探してるにゃ」
魔導端末を見せる。
サムネ。
【初心者冒険者を連れてった結果w】
【危険ダンジョンソロ攻略してみた】
【巨大スライムでカレー作ったら…】
【視聴者投票で決める武器ショッピング】
俺。
「なにこれ、異世界に配信文化あるのかよ……」
ニャルル。
「今は配信の時代にゃ」
「冒険より、こっちの方が儲かるにゃ」
「広告と案件と投げ銭で食って行けるにゃ」
夢が無かった。
ニャルル。
オメちゃんを見る。
「その喋るボール」
「撮れ高撮れそうにゃ」
オメちゃん。
「断る」
ニャルル。
「ダンジョン潜るだけにゃ」
オメちゃん。
「絶対違う」
ニャルル。
人差し指を立てる。
「報酬10万出すにゃ」
沈黙。
俺はオメちゃんの代わりに言ってやった。
「行きます」
オメちゃん。
「お前勝手に決めるな」
* * *
ダンジョン入口。
配信開始。
ニャルル。
「こんにちはにゃ〜!!」
「今日は新人剣聖と!」
「伝説の喋るボール回にゃ!!」
コメント。
【男いらん】
【丸いの映せ】
【ボールかわいい】
【剣聖って弱いやつ?】
俺。
「主人公俺なんだが!?」
ニャルルは手慣れた様子で、ダンジョンに潜る。
スライム出現。
ニャルルがサクッと討伐。
コメント。
普通。
盛り上がらない。
ニャルル。
止まって俺を見る。
俺。
「どうした?」
ニャルル。
真顔。
「撮れ高足りないにゃ」
オメちゃん。
「帰るか」
ニャルル。
笑顔。
オメちゃんを持ち上げる。
「今日はこの子を使うにゃ〜」
オメちゃん。
「やめろ」
今度はゴブリン出現。
オメちゃんを思いっきり、ゴブリンに投げつける。
「うぉぉぉぉぉ!!?」
ゴブリン撃破。
コメント爆増。
【草】
【ウケる】
【また投げろ】
【丸いの面白い】
【チャンネル登録した】
俺。
「オメちゃんすげぇ」
オメちゃん。
「おい、人を投げるな!」
俺。
「いや、人ではないだろ」
さらに。
ニャルルがオメちゃんでリフティング。
オメちゃん。
「やめろ〜!!」
コメント。
【リフティング上手!】
【もっと蹴れ】
【転がせ】
【なんで喋れる?】
俺。
「オメちゃん、御愁傷様……」
その時。
奥に巨大な扉が出現。
ニャルル。
目が光る。
「ボス部屋にゃ!」
コメント。
【行け】
【逃げるな】
【登録解除】
【入れ】
俺。
テンション上昇。
「来た……」
「初ボスだ……!!」
オメちゃん。
小さく言う。
「嫌な予感しかしない」
俺たちは。
重そうな扉を開けた。
その瞬間。
全員が、固まった。
「……え?」




