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サッカーボールが喋ったんだが!?

「うわああああああああ!!!!」


落ちる。


真っ白な空間を

どこまでも。


「待って待って待って!!

まだ心の準備が!!」


風が顔面を叩きつける。


いや。


これ風なのか?


上下感覚が完全におかしい。


「転生ってもっとこう!!

女神とか!!

説明とかあるだろ!!」


誰も答えない。


最低のカスタマーサービスだった。


その時。


遠くに光が見えた。


「……!」


来た。


異世界。


ついに。


俺の。


夢の世界。


「キタァァァァァ!!」


俺は叫びながら

光へ突っ込んだ。


次の瞬間。


ドゴォッ!!!


「ぶべっ!!」


顔面から地面へ突っ込んだ。


・・・


・・・・・・


…………痛い。


めちゃくちゃ痛い。


「ぃっ……ぅぅ……」


顔を上げる。


草。


土。


木。


森だった。


「…………」


俺は数秒固まった。


そして。


ゆっくり立ち上がる。


「……おぉ」


異世界だ。


森の匂い。


少し冷たい空気。


見たことのない巨大な木。


鳥みたいな鳴き声。


空の色も微妙に違う。


「異世界だァァァァァ!!!!」


俺は両手を上げて叫んだ。


ついに来た。


念願の異世界。


俺の人生が始まる場所。


「うおぉぉぉ!!マジで来た!!

すげぇ!!本当にあるんだ!!」


テンションが爆発する。


俺は走り回った。


草に触る。


木を叩く。


地面を嗅ぐ。


完全に不審者である。


だが仕方ない。


異世界だぞ!?


テンション上がるに決まってるだろ!!


その時だった。


「……ん?」


妙な違和感。


俺は自分の腕を見る。


「…………あれ?」


筋肉がついていた。


いや。


ムキムキではない。


だが。


明らかに前世の俺より

身体が締まっている。


腕も。


肩も。


腹も。


ちゃんと筋肉がある。


「えっ」


俺は服の上から

自分の身体を触る。


胸板。


腹筋。


脚。


「うおっ!?」


めちゃくちゃ健康的になってる。


前世の俺は

完全なる運動不足だった。


徹夜。


エナドリ。


コンビニ飯。


終電生活。


腹なんて

ぷよぷよ寸前だった。


なのに今。


身体が軽い。


めちゃくちゃ動ける。


「これ……転生ボーナスか!?」


俺はテンションが上がる。


「キタァァァ!!異世界肉体補正!!」


最高だった。


その時。


近くの水たまりに


自分の顔が映った。


「……あ」


黒髪。


少しボサボサ。


目の下に少しクマ。


そこは変わらない。


でも。


全体的に

かなり整っている。


肌も少し綺麗だ。


目つきも

前より悪くない。


何より。


覇気がある。


前世の

死んだ魚みたいな顔じゃない。


「……おぉ」


俺は自分の頬を触る。


「なんか……主人公補正入ってる……」


感動した。


完全イケメンではない。


だが。


“冴えないオタクが

ギリ主人公化した感じ”

になっている。


めちゃくちゃ嬉しい。


「異世界すげぇぇぇぇ!!」


俺はテンション爆上がりで

ガッツポーズする。


「これならモテる!!絶対モテる!!

異世界ハーレムあるぞこれ!!」


最高だった。


やはり異世界。


現実とは違う。


努力してないのに

人生が上向いてる。


もうこの時点で

来てよかった。


「よし……まずはステータス確認だな」


俺は真顔になる。


重要だ。


異世界では最初の確認が大事。


ステータス。


加護。


スキル。

テンプレ知識だと

まずここを確認する。


俺は右手を前へ出す。


「ステータスオープン!!」


沈黙。


「…………」


何も起きない。


「……え?」


もう一度。


「ステータス!!」


沈黙。


「鑑定!!」


何もなし。


「スキル一覧!!」


無反応。


「メニュー!!」


シーン……


「………………」


嫌な汗が出る。


「いやいやいや」


落ち着け。


テンプレが違うだけだ。


詠唱タイプかもしれない。


「我が魂に刻まれし力よ――」


何も起きない。


「…………」


俺は静かに空を見上げた。


「……あれ?」


その時だった。


遠くから叫び声が聞こえた。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


「!?」


俺は反射的に走った。


テンプレだ。


これは絶対テンプレ。


最初のイベント。


村人が魔物に襲われてるやつ。


ここで助ける。


感謝される。


仲間になる。


完璧だ。


「任せろォォォォ!!」


俺は森を駆け抜ける。


身体が軽い。


めちゃくちゃ走れる。


「うおっ!?異世界フィジカルすげぇ!!」


そして。


開けた場所へ飛び出した。


「――え?」


そこにいたのは。


ドラゴンだった。


デカい。


黒い。


めちゃくちゃ怖い。


木よりデカい。


完全に災害レベル。


そして。


そいつから必死に逃げている存在が――


サッカーボールだった。


「…………は?」


白黒の。


普通の。


どう見ても。


サッカーボール。


しかも。


転がりながら逃げてる。


「うわぁぁぁ!!

死ぬ!!

死ぬ死ぬ死ぬ!!」


喋った。


「…………」


俺は固まる。


情報量が多すぎる。


すると。


サッカーボールが

こちらを見た。


「お前!!

見てないで助けろォォォ!!」


「いや、何ィィィィィ!!?」


ドラゴンが吠えた。


ゴァァァァァァァッ!!!


爆風みたいな咆哮。


木々が揺れる。


「うわぁぁぁ!!」


俺は反射的に逃げた。


サッカーボールも転がって付いてくる。


「待て!!置いてくな!!」


「ボールが喋るな!!」


「差別か!?」


「世界観が追いつかねぇんだよ!!」


森の中を全力疾走する。


だが。


身体が軽い。


めちゃくちゃ走れる。


「うおっ!?異世界フィジカルすげぇ!!」


「現実逃避してる場合か!!

来てる!!後ろ来てる!!」


振り返る。


ドラゴンが木をなぎ倒しながら

追ってきていた。


怖い。


普通に怖い。


「なんで初手ドラゴンなんだよ!!

もっとこう!!

スライムとかゴブリンとかあるだろ!!」


その時。


目の前に崖が現れた。


「うわっ!!」


急停止。


下を見る。


高い。


めちゃくちゃ高い。


落ちたら死ぬ。


後ろではドラゴン。


完全に詰みだった。


「終わったァァァ!!」


ドラゴンが大きく口を開く。


赤い光。


熱。


「ブレス来るぞ!!」


「知ってるわ!!」


その瞬間だった。


――ゾワッ。


突然。


身体の奥で

何かが熱くなった。


「……え?」


右腕が光る。


いや。


正確には。


“何か”が流れ込んでくる。


知らない感覚。


でも。


なぜか。


わかった。


「――斬れる」


「は?」


サッカーボールが固まる。


次の瞬間。


俺は近くに落ちていた木の枝を掴んだ。


そして。


ドラゴンへ向かって叫ぶ。


「うおおおおおおお!!」


ブンッ!!!


枝を振る。


その瞬間。


白い斬撃が飛んだ。


ズガァァァンッ!!!!


森が割れた。


「……………………」


ドラゴンの首が。


ズレた。


数秒後。


ズドォォォォン!!!


巨体が倒れる。


沈黙。


風が吹く。


俺とサッカーボールは

固まっていた。


「…………」


「…………」


「……え?」


「……え?」


そして同時に叫ぶ。


「何〜? 今のォォォォォ!!?」


静寂。


ドラゴンは死んでいた。


木の枝で。


意味がわからない。


「えっ……やったの俺?」


「お前以外誰がいる!!」


サッカーボールが叫ぶ。


「いやでも木の枝だぞ!?

ドラゴンだぞ!?」


「知らん!!」


俺は自分の右手を見る。


まだ少し熱い。


身体の奥が


ジンジンしていた。


「これ……加護?」


「なんだ、加護持ちか?

なら、さっさと使えや!」


「よくわからんが加護来たーー!!」


俺はテンションが上がる。


「キタァァァ!!

やっぱ俺チート主人公じゃん!!」


「うるさいなお前!!」


サッカーボールが跳ねる。


「とりあえず静かにしろ!!

他の魔物が来る!!」


「いや、お前何者なんだよ!!」


「それはこっちのセリフだ!!

なんで転生初日で竜殺してる!!」


「知らねぇよ!!」


俺たちはしばらく叫び合った。


その後。


俺は改めて

サッカーボールを見る。


普通の白黒ボール。


少し泥がついている。


どう見ても


サッカーボール。


「…………」


「なんだ」


「やっぱ意味わかんねぇ」


「それはこっちのセリフだ」


「なんで喋ってんの?」


「仕様だ」


「仕様!?」


「それより」


サッカーボールは

少し真面目な声になった。


「お前……どこから来た」


「日本」


「転生者か」


「おう!!」


俺は胸を張る。


「念願の異世界転生だ!!」


すると。


サッカーボールが沈黙した。


「……なんだよ」


数秒後。


ボソッと呟く。


「また転生者か……」


「え?」


その声は。


少しだけ。


疲れて聞こえた。


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