表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/12

念願の異世界転生!?

「今日こそ……

異世界へ行ける気がする……!!」


深夜1時。


コンビニ帰り道。


俺は住宅街の真ん中で

拳を握りしめていた。


普通に見れば

かなりヤバい男だ。


だが。


俺は本気だった。


夜風が吹く。


遠くで犬が鳴く。


薄曇りの空の向こうで

月がぼんやり光っていた。


そして。


スゥ……っと。


俺の目の前を

黒猫が横切った。


「……」


足が止まる。


黒猫。


深夜。


無風。


妙に静かな住宅街。


こういうのは

"来る前兆"だ。


俺は知っている。


異世界考察スレでも


『世界の境界が近づく時

黒い動物を見る』


という報告は多かった。


胸が高鳴る。


来る。


今日は来る。


今日は絶対に何かある。


「……これは完全に転生前イベントの予兆」


俺は小さく呟く。


異世界転生。


それは俺にとって

人生最大の夢だった。


剣と魔法。


冒険者ギルド。


エルフ。


ドラゴン。


チート能力。


加護。


ステータス。


そして。


現実では冴えない主人公が

異世界で無双する物語。


俺はそれを

何百回も見てきた。


何百回も読んできた。


ラノベ。


アニメ。


ゲーム。


都市伝説。


オカルト。


異世界考察。


気づけば

人生そのものが

異世界中心になっていた。


断食もした。


瞑想もした。


滝行もやった。


オナ禁だって挑戦した。


最長5日もだ。


幽体離脱だって本気で試した。


『眠る瞬間に身体を揺らすと成功しやすい』


という書き込みを信じて

深夜3時に一人で

身体をビクビクさせ続けたこともある。


隣人から壁ドンされた。


でも。


全部、本気だった。


この世界のどこかには

"境界線"が必ずある。


夢と現実の狭間。


世界と世界の継ぎ目。


そこへ辿り着ければ

必ず異世界へ行ける。


俺は本気で

そう信じていた。


「トラック……来ないかな」


こんなことを思って

道路を見る俺は

異常なのかもしれない。


だが。


異世界オタクなら一度は考える。


いや、絶対考える。


俺は宮坂孝一。


26歳。


職業はプログラマー。


俺の仕事と言えば

毎日コードを書き。


毎日仕様変更に殴られ。


毎日炎上案件の火消しをし。


毎日終電で帰る。


「……クソゲーだろ この世界」


思わず呟く。


学生時代から


ずっと周囲に馴染めなかった。


空気を読むのが苦手。


好きな話になると止まらない。


オシャレもわからない。


女子と話すだけで変な汗をかく。


いつも髪はボサボサ。


目の下にはクマ。


ヨレたパーカーに、ジーンズ。


ネットの向こう側に

いくらでもいそうな

よくいるオタクだ。


でも。


異世界の話をしている時だけは

俺の目は輝くらしい。


会社の後輩にも言われた。


『宮坂さんって

異世界の話してる時って

正直キモいっすよね』


失礼すぎるだろ。


だが否定できなかった。


   *   *   *


部屋に帰る。


築30年のワンルーム。


狭い。


暑い。


散らかってる。


床にはコンビニ袋。


積み上がったエナドリ。


脱ぎっぱなしの服。


そして。


壁一面の異世界ラノベ。


「ただいま 異世界」


返事はない。


でも

少し安心する。


ここだけが

俺の居場所だった。


俺はパソコンを起動する。


いつものサイトを開く。


異世界掲示板。


オカルトまとめ。


転生考察スレ。


『最近また転移者増えてね?』

『異世界帰りだけど質問ある?』

『異界に繋がる方法まとめ』


「……絶対本物混ざってるよな」


俺はニヤける。


ネットではネタ扱いだ。


でも。


俺は本気で信じていた。


異世界は存在する。


そして時々。


この世界と繋がる。


深夜2時。


古いトンネル。


誰もいない駅。


鏡。


夢。


事故。


そういう"境界"が必ずある。


俺は棚から

猫耳の女の子のフィギアを手に取る。


「もし転生したら……」


自然と妄想が始まる。


加護。


スキル。


職業。


「やっぱ剣聖かなぁ……

いやでも魔法も捨てがたい……」


俺はニヤニヤする。


剣術を極めて。


冒険者になって。


仲間ができて。


魔王を倒して。


そして。


現実では冴えなかった俺が

"必要とされる"。


そこまで考えて。


ふと。


笑顔が消えた。


「……まぁ、現実は無理か」


部屋が静かになる。


冷蔵庫の音だけが響く。


スマホを見る。


SNS。


そこには

キラキラした人生を

送っている人で溢れていた。


「…………」


比べたくない。


でも比べてしまう。


なぜ、俺の人生だけ

こんなクソゲーなのか?


スタートラインにすら立てない。


気づいたら

26歳になっていた。


「俺だって……異世界に行けば……」


きっと違う自分になれる。


そう信じていた。


ずっと。


  *   *   *


その時だった。


ピコン。


スマホが鳴った。


通知1件。


差出人不明。


件名。


【異世界転生事前アンケート】


「……………………」


数秒固まる。


そして次の瞬間。


俺の目が一気に輝いた。


「キタァァァァァ!!!!」


【異世界転生事前アンケート】


俺は震える指で

スマホをタップした。


ブゥン。


小さく振動。


画面が真っ白になる。


数秒後。


文字が浮かび上がった。


【ようこそ】


【異世界転生管理局へ】


「管理局あるんだ!?」


いやでも。


異世界転生者が大量にいるなら

そりゃ管理組織くらい必要か。


たぶん市役所みたいなもんだ。


【質問にお答えください】

【より良い異世界ライフをご提供します】


「通販サイトみたいだな……」


だが嫌いじゃない。


むしろ大歓迎だ!


【質問1】

【異世界転生を希望しますか?】


YES/NO


「YES以外ある!?」


即押し。


【質問2】

【理想の異世界ライフを選択してください】


・最強無双

・スローライフ

・ハーレム

・成り上がり

・冒険重視

・未定


「うわぁぁぁぁ!!」


俺は叫んだ。


始まった。


異世界転生設定だ。


「待て……ここは慎重に行け……」


俺は真剣に考える。


最強もいい。


スローライフも捨てがたい。


だが。


やはり男なら冒険。


剣と魔法。


ドラゴン。


仲間。


ロマンだ。


「――冒険重視だ」


ポチ。


【確認しました】


「よっしゃぁぁぁぁ!!」


完全にテンションがぶち壊れた。


だが仕方ない。


異世界だぞ!?


テンション上がるに決まってるだろ!!


【質問3】

【現実世界に未練はありますか?】


「…………」


指が止まる。


部屋を見回す。


散らかったワンルーム。


未読99+の仕事チャット。


『明日朝までにお願いします』の文字。


「……ないな」


YESを押した。


その瞬間。


スマホが赤く光った。


【適性確認】

【異世界願望:異常値】

【世界干渉適性:確認】


「……え?」


次の瞬間。


部屋の電気が落ちた。


真っ暗。


スマホだけが白く光っている。


【転生準備を開始します】


「キターーー!!」


その時だった。


ゴォォォォォ……


低い音。


まるで。


空そのものが唸っているような。


「……?」


俺は窓を見る。


夜空。


そこに。


"火"が落ちてきていた。


「…………は?」


赤い。


燃えている。


巨大。


一直線に、こっちへ。



「いやいやいやいや!?」


隕石だった。


どう見ても隕石だった。


「ちょっ……待っ……」


パニックになる。


意味がわからない。


なんで隕石!?


神様に呼ばれるんじゃないの!?


異世界転生ってトラックとか

パソコンに入るとか

普通そうゆうんだろ?


サイズ感おかしくないか!?


宇宙規模すぎるだろ!?


……あ。


もしかして。


俺の「異世界願望:異常値」って


そういう……


「うわああああああああ!!!!」


隕石はものすごい速度で接近してくる。


考える時間すら、もうなかった。


窓ガラスが震える。


世界が赤く染まる。


ドゴォォォォォォン!!!!


轟音。


衝撃。


視界が真っ白になる。


身体が潰れる感覚。


痛みすら認識できない。


そして。


静寂。


・・・


・・・・・・


…………あれ?


俺。


死んだ?


次の瞬間。


真っ白な空間へ

俺は立っていた。


「…………」


周囲には何もない。


白。


ただ白。


「……え」


その時。


どこからか機械みたいな声が響いた。


『死亡を確認しました』

『死因:小規模隕石直撃』


「いや死因おかしいだろ!!」


『異世界転生処理を開始します』


「うおおおおお!!」


来た。


来た来た来た。


異世界転生!!


死因への疑問は後回しだ。


今はこっちが重要。


俺は思わず拳を握る。


すると。


目の前に、光のウィンドウが現れた。


【転生処理中】


「おっ」


これはアレだ。


ステータス。


加護。


チート能力。


ついに。


ついに来る。


俺はワクワクしながら待つ。


が。


【ERROR】


「……え?」


【ERROR】


【ERROR】


画面が赤く染まる。


「えっ、ちょっ」


白い空間が揺れ始めた。


警報みたいな音が響く。


『警告』

『世界接続先 不安定』

『転生先 混雑中』


「混雑!?異世界に混雑とかあるの!?」


『現在 異世界転生利用者急増により』

『簡易転生プランへ移行します』


「LCCみたいに言うな!!」


『加護情報は転生後に開示されます』


「えっ?現地受け取り!?」


『なお転生先では』

『勇者・賢者・召喚士など』

『人気職は空席待ちとなっております』


「空席待ちって何!?

人気職に定員あるの!?」


『良き異世界ライフを』


「待っ――」


次の瞬間。


床が消えた。


「うわああああああああ!!!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ