魔王を知ってる人を探したら、フェアリー作家だったんだが!?
トカゲパフェを倒すと、源さんは元の爺さんに戻っていた。
さっきまでそこにいた、銀髪で長身の超絶イケメン勇者。
完全に主人公。
むしろ俺より主人公。
だったはずなのに。
今、目の前にいるのは、腰を押さえながら小さく唸る団子屋の爺さんだった。
源さん。
「ふぅ……腰が痛いのぉ」
俺。
「戻ったァァァ!!」
あまりにも自然に戻ったので、逆に怖い。
ピコリは、その様子を見て明らかに落胆していた。
さっきまで髪を整えていた手が、静かに止まっている。
俺。
「お前、今あからさまに残念そうだったぞ」
ピコリ。
「はぁ?そんな事ないんだけど!」
女は怖い。
事実を言っても怒られる。
オメちゃんが転がりながら説明する。
オメちゃん。
「勇者の加護は、戦闘中だけ全盛期の肉体に戻る」
俺。
「便利すぎるだろ!」
源さん。
「全然便利じゃないわい」
「若返っても魔王討伐せにゃならんし、戦闘終われば腰痛は戻る」
「団子屋にも戻れん」
俺。
「急に現実的なこと言うなよ」
さすが勇者の加護。
凄い。
でも、本人は全く嬉しそうじゃない。
この世界、本当に夢がない。
そんな話をしながら歩いていると、ようやく目的地が見えてきた。
魔王の手掛かりを持つ人物がいるという隣町。
ミルミルミール。
名前からして、少し不安になる町である。
町に入った瞬間、俺は思わず立ち止まった。
俺。
「なんだこれ!?」
「まるでお祭りみたいじゃん!」
通りの両側には、屋台がびっしり並んでいた。
勇者のぬいぐるみ。
勇者まんじゅう。
魔王クッキー。
絵本。
ポスター。
木彫りの勇者像。
やたら可愛い魔王のマスコット。
町中が、勇者と魔王と絵本で埋め尽くされている。
俺。
「これだよ!」
「こういう異世界感だよ!」
ニャルル。
「なんか、勇者と絵本がいっぱいにゃ」
「グッズ展開が上手い町にゃ」
翔太。
「ふむ……」
「この町の魔法文化レベルは、装飾品と出版物に偏っているようだな」
俺。
「急に厨二目線で分析するな」
源さんは屋台を眺めながら、腕を組んでいた。
源さん。
「この町で団子屋やったら売れそうじゃのぉ」
俺。
「勇者が商売の可能性を考えるな」
気づくと、ピコリがいない。
俺。
「あれ?ピコリは?」
翔太。
「将来有望なイケメンを探してくるって、どこかへ行った」
俺。
「自由すぎるだろ」
俺は周囲を見回した。
俺。
「シェンリンは?」
翔太。
「本読みたいから先に宿屋へ行くってさ」
俺。
「こっちも自由すぎるだろ……」
オメちゃん。
「このパーティーに協調性を求めるのは無理だな」
俺。
「旅が始まったばっかりなのに、もう崩壊してるんだが」
その時、屋台のおっちゃんが源さんに声をかけた。
屋台のおっちゃん。
「お!そこの勇者のコスプレしてる爺さん」
「どうだい、絵本買っていかねえか?」
源さん。
「コスプレじゃないわい!」
「本物の勇者じゃ!」
屋台のおっちゃん。
「またまた〜」
「最近多いんだよねぇ、勇者ガチャの時期になるとそういう人」
源さん。
「本物じゃと言っとるじゃろ!」
おっちゃんは全く信じていない。
次にニャルルを見た。
屋台のおっちゃん。
「そこの可愛い獣人さんはどうだい?」
「限定表紙版もあるよ」
ニャルル。
「お前、見る目があるにゃ」
「一つ買うにゃ」
俺。
「チョロいな」
ニャルル。
「褒められたら買う」
「配信者の基本にゃ」
俺。
「そんな基本あるの?」
俺は屋台に並んでいる絵本を手に取った。
表紙には、勇者と魔王が描かれている。
勇者はやけに爽やか。
魔王はやけに可愛い。
これ、本当に魔王なのか?
俺。
「なぁ、おっちゃん」
「この町に魔王に詳しい人がいるって聞いたんだけど、知ってる?」
屋台のおっちゃん。
「そりゃあ、パチュ先生のことだろ」
俺。
「パチュ先生?」
屋台のおっちゃん。
「ああ」
「パチュ先生のおかげで、この町は栄えてるようなもんだからな」
おっちゃんは、町の奥にある一際大きな屋敷を指差した。
屋台のおっちゃん。
「パチュ先生なら、あそこにいる」
「会えるかどうかは知らねえけど、行ってみたらどうだ?」
ニャルル。
「なんか、有名な学者さんとかにゃ?」
屋台のおっちゃん。
「ははは」
「行ってみりゃ分かるさ」
そう言って、おっちゃんは意味深に笑った。
源さん。
「わしは腰が痛いから、先に宿屋へ行っとる」
俺。
「いや、勇者が魔王の手掛かり探さなきゃいけないだろ」
源さん。
「魔王より腰痛じゃ」
そう言って、源さんはスタスタと町の中へ消えていった。
俺。
「このパーティー、本当に大丈夫か?」
オメちゃん。
「大丈夫だったことがない」
俺。
「冷静に言うな」
俺、ニャルル、翔太、オメちゃんは、屋敷へ向かった。
屋敷の前には、子供たちが長い行列を作っていた。
みんな絵本を抱えている。
中には、フェアリーの羽がついた帽子をかぶっている子もいる。
俺。
「何に並んでるんだ?」
子供1。
「パチュ先生のサインを貰うためだよ!」
子供2。
「今日は読み聞かせ会もあるんだ!」
子供3。
「限定しおりも貰えるんだよ!」
俺。
「サイン?」
「読み聞かせ?」
翔太。
「どういうことだ?」
「魔王研究家ではないのか?」
ニャルル。
「とりあえず、会ってみるにゃ」
俺たちは屋敷の扉を開けた。
中から、きちんとした服を着た執事が現れる。
執事。
「どのようなご用件でしょうか?」
俺。
「魔王の手掛かりを教えて貰うために、パチュ先生に会いに来ました」
執事は一瞬だけ首を傾げた。
執事。
「魔王の……手掛かりでございますか?」
俺。
「はい」
執事。
「かしこまりました」
「ご案内いたします」
あれ。
通してくれるんだ。
俺は少し拍子抜けした。
もっとこう、試練とか、合言葉とか、謎解きとかあると思っていた。
異世界の屋敷なのに、普通に受付がちゃんとしている。
夢がない。
いや、ある意味助かる。
長い廊下を進む。
壁には大量の絵本の表紙が飾られていた。
『勇者の絵日記』
『魔王と泣き虫勇者』
『帰ってきた魔王』
『魔王の休日』
『勇者、寝坊する』
『勇者やめます』
『私もやめます』
俺。
「なんかタイトル軽くない?」
「てか、最後のやつ、もう魔王関係なくない?」
翔太。
「魔王の威厳が感じられないな」
ニャルル。
「でも売れそうにゃ」
執事が一つの部屋の前で立ち止まった。
執事。
「こちらでございます」
扉が開く。
そこは書斎だった。
壁一面の本棚。
山積みの原稿。
床に散らばるラフ画。
机の上にはインク瓶、羽ペン、飲みかけのお茶。
そして、書斎の大きなデスクの上に。
手のひらサイズの小さなフェアリーがいた。
エメラルドグリーンの髪。
小さな羽。
ふわふわと淡い光。
大きな瞳。
小さな身体。
まるで絵本から飛び出してきたような、超可愛い妖精だった。
俺。
「……」
翔太。
「……」
俺と翔太は顔を見合わせた。
そして、同時に叫んだ。
俺。
「キタァァァァァ!!」
翔太。
「キタァァァァァ!!」
俺。
「フェアリーだ!!」
翔太。
「本物のフェアリーだ!!」
俺。
「これだよ!!」
「俺が求めてた異世界!!」
翔太。
「転生して良かった!!」
俺。
「異世界最高ォォォ!!」
パチュ先生。
「うるせぇ!」
俺。
「……」
翔太。
「……はい」
小さなフェアリーは、眼鏡をずり上げながら、机に突っ伏していた。
パチュ先生。
「うわ〜」
「もう無理だ〜」
「間に合わない〜」
執事。
「先生、編集者から締切のお電話が入っております」
パチュ先生。
「先生が過密スケジュールで倒れたから、電話に出られないと言え!」
執事。
「先生、申し訳ございません」
「その嘘は先週すでに使っています」
パチュ先生。
「じゃあ、魔物に襲われて大怪我だと言え!」
執事。
「それは二週間前に使っています」
パチュ先生。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
俺。
「締切?」
翔太。
「妖精なのに締切に追われている……」
ニャルル。
「現実的なフェアリーにゃ」
執事が静かに説明する。
執事。
「パチュ先生は、累計七百万部突破の人気絵本作家でございます」
俺。
「え〜〜〜!?」
翔太。
「七百万部!?」
ニャルル。
「数字が強いにゃ」
俺は改めてパチュ先生を見る。
手のひらサイズのフェアリー。
見た目は完全に夢の存在。
中身は締切に追われる売れっ子作家。
異世界の夢と現実が、またしても雑に混ざっていた。
俺。
「あの、パチュ先生」
パチュ先生。
「あ?」
俺。
「魔王の情報を知ってるって聞いたんですけど……」
パチュ先生。
「魔王?」
パチュ先生は眠そうな目でこちらを見た。
パチュ先生。
「知らんけど」
俺。
「はぃ?」
翔太。
「え?」
ニャルル。
「にゃ?」
パチュ先生。
「会ったこともないし」
俺。
「じゃあ、なんで魔王に詳しいって言われてるんだよ!」
パチュ先生。
「魔王の絵本描いてるからだろ」
沈黙。
俺。
「創作かよ!!」
翔太。
「完全に創作側の人間だった!」
ニャルル。
「でも七百万部はすごいにゃ」
パチュ先生は面倒くさそうに羽を揺らした。
パチュ先生。
「当たり前だろ」
「魔王に会ったことある作家なんて、そうそういるか」
俺。
「魔王を知る人物って聞いて来たんだぞ!」
パチュ先生。
「知ってるぞ」
「売れる魔王の描き方ならな」
俺。
「そっちじゃねぇ!!」
パチュ先生は俺たちをしばらく眺めた。
そして、ニヤリと笑った。
パチュ先生。
「でも、お前ら冒険者だろ?」
俺。
「一応……」
パチュ先生。
「ちょうどいいところに来た」
俺。
「嫌な予感しかしない」
パチュ先生は机の上に積まれた原稿をどかし、奥から一枚の古びたメモを取り出した。
パチュ先生。
「魔王を調べたいなら、灰の図書館に行け」
俺。
「灰の図書館?」
パチュ先生。
「ああ」
「世界中の禁書や歴史書、発禁本、消された記録が集まる場所だ」
翔太。
「禁書……」
翔太の目が輝いた。
俺。
「お前、絶対好きそうだな」
パチュ先生。
「そこに、私が欲しい本がある」
メモには、古い文字でこう書かれていた。
『ある科学者の手記』
俺。
「科学者の手記?」
パチュ先生。
「世界を創ろうとした頭のおかしい科学者の日記らしい」
翔太。
「世界を創る……?」
俺。
「何それ、厨二病?」
パチュ先生。
「知らん」
「だから読んでみたい」
パチュ先生は羽を動かして、ふわりと宙に浮いた。
パチュ先生。
「次の絵本の資料に使えそうなんだ」
俺。
「絵本の資料かよ」
パチュ先生。
「資料は大事だ」
「読者はリアリティにうるさい」
俺。
「急に作家目線出すな」
俺は腕を組んだ。
俺。
「じゃあ、自分で取りに行けばいいだろ」
パチュ先生。
「無理」
即答だった。
俺。
「早いな」
パチュ先生。
「灰の図書館の近くには、とんでもない魔物が棲みついている」
部屋の空気が少し変わった。
パチュ先生。
「何人ものAランク冒険者が帰ってきてない」
ニャルル。
「急に物騒にゃ」
翔太。
「Aランク冒険者が……」
俺。
「そんなところに行かせる気かよ!」
パチュ先生。
「だから報酬は出す」
ニャルル。
「案件にゃ」
俺。
「反応早いな!」
その時、いつの間にか戻ってきていたピコリが、扉の横で手を挙げた。
ピコリ。
「受けます」
俺。
「お前、いつ戻ってきた!?」
ピコリ。
「報酬って聞こえたから」
俺。
「金に対する嗅覚が怖い」
パチュ先生は満足そうに頷いた。
パチュ先生。
「依頼内容は簡単だ」
「灰の図書館から、科学者の手記を持ち帰れ」
「それだけだ」
俺。
「それだけって言い方が、一番信用できないんだよな」
パチュ先生。
「死ぬなよ」
俺。
「軽いな!」
こうして俺たちは、新しい依頼を受けることになった。
魔王の手掛かりを探しに来たはずなのに。
なぜか、売れっ子フェアリー作家の次回作資料を取りに行くことになった。
本当にこの世界は、俺の想像通りに進まない。




