図書館に行くだけなのに、木が強すぎるんだが!?
灰の図書館へ向かう山道。
俺たちは、灰色の岩肌が続く細い道を歩いていた。
メンバーは。
俺。
オメちゃん。
ニャルル。
源さん。
翔太。
そして、ペロンティ。
今回は、シェンリンとピコリ、ユニぴょんはいない。
シェンリンは「雑用なら行かない」と言って宿屋に戻った。
ピコリは「未来の王子様候補を探す」と言って町に消えた。
自由すぎる。
このパーティー、本当に旅をする気があるのか?
森を歩きながら、ふと思ったことを翔太に聞く。
俺。
「な〜、翔太」
翔太。
「なんだ」
俺。
「お前さ、詠唱に時間掛かるじゃん?」
翔太。
「当たり前だ!」
「我が魔法は大いなる力を呼び覚ますために、長き言霊を必要とする」
俺。
「要するに長いじゃん」
翔太。
「その言い方やめろ!」
俺は少し考えてから言った。
俺。
「じゃあさ、モンスターと遭遇する前から、唱えてたらいいんじゃね?」
翔太。
「……」
翔太は足を止めた。
俺。
「え?」
翔太。
「確かに」
俺。
「だろ?」
翔太。
「お前、頭いいな!」
ニャルル。
「唱え終わって、モンスターいなかったらどうするにゃ?」
俺。
「また最初からだろ」
翔太。
「それ、めんどくさいな」
俺。
「いや、そもそもお前の加護が、めんどくさい仕様だからな!」
翔太。
「ファイヤーボール!」
俺。
「あっぶねぇ!!」
俺の横を、小さな火の玉が飛んでいった。
木に当たって、ぼふっと煙が上がる。
俺。
「何すんだよ!」
翔太。
「うるさい!」
俺。
「お前、マジで友達いないだろ」
翔太。
「ファイヤー…」
俺。
「分かった!分かった!危ないからやめろって!」
ニャルル。
「男のイチャイチャは見てられないにゃ」
俺。
「どこがイチャイチャだよ!」
オメちゃん。
「似た者同士だな」
俺。
「やめろ」
翔太。
「やめろ」
俺と翔太の声が重なった。
沈黙。
ニャルル。
「ほらにゃ」
俺。
「違う!!」
そんなやり取りをしながら、俺たちは山道を進んだ。
途中、何度かザコモンスターと遭遇した。
キノコなのに四角い魔物。
足の生えた石。
妙に態度の悪いウサギ。
どれも大したことはなかった。
基本的に源さんが前に出て、勇者モードで一撃。
終わり。
ニャルルと翔太はモンスターの弱さに不満のようだ。
翔太。
「あ〜あ」
「もう少し強いモンスター出てこないかな〜」
俺。
「いや、お前ほとんど何もしてないだろ!」
「全部、源さんの一撃で終わってるじゃん」
翔太。
「あんな雑魚、俺の魔法を使うまでもない」
俺。
「はいはい」
翔太。
「本気を出せば山が消える」
俺。
「はいはい」
ニャルル。
「むしろ出さない方が貢献してるにゃ」
翔太。
「お前らなぁ!」
その時だった。
ヒュン。
何かが空気を裂いた。
翔太。
「痛ッ!」
翔太の頬に、細い切り傷が走った。
赤い血が一筋流れる。
俺。
「翔太?」
翔太。
「今、何か飛んで――」
言い終わる前に。
ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!
無数の鋭い何かが、俺たちに向かって飛んできた。
俺。
「伏せろ!!」
俺たちは慌てて木の影に飛び込んだ。
ガガガガガッ!!
鋭い葉のようなものが、木の幹に突き刺さる。
いや。
葉っぱだ。
薄く、鋭く、刃物みたいな葉。
俺。
「なんだ!?この葉っぱ!?」
ニャルル。
「何かが攻撃して来るにゃ!」
俺たちは木の影から、恐る恐る前方を覗いた。
そこにいたのは。
巨大な動く大木だった。
幹は黒くねじれ。
根は足のように地面を掴み。
枝は無数の腕のように揺れている。
葉は刃。
樹皮は鎧。
目のような穴が、幹の中央に開いていた。
俺。
「何あれ……」
オメちゃん。
「樹神グランボルグだな」
俺。
「え?」
「神クラス?」
「やばいじゃん!」
オメちゃん。
「名前は神っぽいが、神ではない」
俺。
「名前詐欺やめろよ!」
樹神グランボルグが枝を振る。
ヒュンヒュンヒュン!!
また鋭い葉が飛んできた。
俺たちは慌てて身を隠す。
源さんはすでに、勇者モードを発動している。
銀髪の超絶イケメン勇者。
源さん。
「ほいっと」
大剣を振る。
ザンッ!!
樹神グランボルグの手のような枝が、何本も切り落とされた。
だが。
次の瞬間。
すぐに枝が再生した。
俺。
「再生した!?」
ニャルル。
「効いて無いにゃ!」
源さん。
「厄介じゃのぉ」
源さんは何度も斬りかかる。
ザン。
ザザン。
ザザザン。
だが、切ったそばから元に戻る。
まるで意味がない。
しかし次の瞬間。
ドゴォォン!!
巨大な枝が源さんを吹き飛ばした。
源さん。
「ぐはっ!」
勇者が10メートルほど転がる。
俺。
「源さん!?」
源さん。
「……久々に効いたわい」
ニャルル。
「お!中々のモンスターにゃ!」
「配信始めるにゃ!」
俺。
「この状況で!?」
ニャルル。
「強敵回は伸びるにゃ」
「サムネは『勇者、木に苦戦』でいくにゃ」
源さん。
「勝手に苦戦させるでない!」
【お、久しぶりの配信!】
【なんか人増えてる】
【勇者イケメン】
【オメちゃん映せ】
【今回の主人公は木?】
俺は剣を握り直した。
俺。
「おい、翔太」
翔太。
「なんだ」
俺。
「俺と源さんで時間稼ぐから、特大のやつ頼む」
翔太は頬の血を拭い、ニヤリと笑った。
翔太。
「任せろ」
「ようやく我が真価を見せる時が来たようだな」
俺。
「強力な魔法を、詠唱短めで頼む」
翔太。
「無理だ」
俺。
「だよな」
俺は前に出た。
俺。
「源さん、サポートよろしく!」
源さん。
「分かっとるわい」
俺は地面を蹴った。
その瞬間。
身体が軽い。
前のトカゲパフェ戦の時よりも、明らかに動ける。
景色が流れる。
俺。
(あれ?)
(俺、強くなってる?)
剣を振る。
ザンッ!!
樹神グランボルグの枝を三本まとめて斬り裂いた。
俺。
「おおっ!」
思わず声が出る。
ニャルル。
「今のちょっとカッコよかったにゃ!」
俺。
「ちょっとかよ!」
【剣聖の動きが良くなっている】
【ネタ枠じゃないのか?】
【オメちゃんはどこだ?】
俺。
「なんか気が散る…」
切った枝の根元から、また青い芽が生える。
一気に伸びる。
元通り。
俺。
「うわ、面倒くせぇ!」
樹神グランボルグが幹を揺らした。
無数の葉が刃となって飛ぶ。
俺は横に跳んで避ける。
源さんが大剣で弾く。
ガガガガッ!!
葉っぱが大剣に当たり、火花のようなものが散った。
俺と源さんは、後ろで詠唱している翔太を守りながら、交互に攻撃を続けた。
翔太。
「悠久より燃え上がりし、赤き原初の炎よ……」
俺。
「早く早く!」
翔太。
「我が魂の奥底に眠る、深き深き火種よ……」
俺。
「…遅い」
翔太。
「今こそ目覚め、世界を焼き尽くす業火となりて……」
ニャルル。
「まだ半分も行ってなさそうにゃ」
俺。
「絶望的な実況やめろ!」
【詠唱長すぎwww】
【魔法使い無能】
【早く撃て】
その時。
頭上から巨大な枝が振り下ろされた。
俺。
「やばっ!」
避けきれない。
そう思った瞬間。
ドゴォン!!
巨大な枝と源さんの大剣がぶつかる。
衝撃で地面が揺れた。
源さん。
「ぼーっとするでない!」
俺。
「ごめん、助かった!」
源さん。
「礼は団子でいいぞ」
俺。
「今、団子の話する!?」
翔太。
「我が魔力は天を焦がし、地を震わせ――」
俺。
「おい翔太、まだかよ!」
翔太。
「うるさい!」
「今いいところだ!」
翔太の身体の周りに、赤い光が渦を巻いて集まり始めた。
空気が熱を帯びる。
足元の枯れ葉が焦げる。
ニャルル。
「翔太の準備、そろそろ出来たみたいにゃ」
俺が後ろを振り返ると。
翔太の頭上に、巨大な火球が浮かんでいた。
俺。
「でかっ!」
翔太。
「見よ!」
「これこそ我が深炎!」
「イグニス・ギガファイヤー!!」
俺。
「名前ちょっと普通だな!」
翔太。
「うるさい!」
巨大な炎の玉が、樹神グランボルグに直撃した。
ドゴォォォォォン!!
炎が爆ぜる。
幹が燃える。
枝が燃える。
葉が一気に黒く焦げていく。
樹神グランボルグ。
「ギギギャギャァァァ!!」
すさまじい叫び声が山に響いた。
俺。
「やったか!?」
翔太。
「見たか!」
「俺の魔法を!」
「ニャルル、ちゃんと配信出来てるか?」
「俺かっこよく撮れてる?」
【魔法使い意外と使える】
【これは面白い戦い】
【オメちゃんを燃やして投げろ】
ニャルル。
「撮れてるにゃ」
「でも」
「まだ生きてるにゃ」
俺。
「なにーー!?」
翔太。
「なにーー!?」
炎の中で、樹神グランボルグが動いた。
焼け焦げた幹の隙間から、どんどん再生していく。
燃えた枝が落ちる。
その代わりに、新しい枝が伸びる。
葉が増える。
元に戻っていく。
俺。
「あれで倒せないなら、どうすればいいんだよ!」
ニャルル。
「何か弱点とか無いのかにゃ?」
俺は燃え残った樹神グランボルグを見た。
源さんが前に出て、時間を稼いでくれている。
俺。
「源さん、悪い!」
「ちょっと時間稼いでくれ!」
源さん。
「早めに頼むぞ!」
俺は樹神グランボルグの動きを観察した。
切り裂いた場所から再生する。
燃えた枝も戻る。
でも。
違う。
よく見ると、傷がそのまま塞がっているわけじゃない。
切れた場所の近くに、青い芽が生えている。
その芽が急成長して、新しい枝になる。
俺。
(再生してるんじゃない)
(新しい芽が成長して補ってるんだ)
さらに見る。
幹のあちこちに、小さな青い芽がある。
枝の付け根。
根元。
幹の割れ目。
そこが光っている。
俺。
「そうか!」
「青い芽だ!」
ニャルル。
「にゃ?」
俺。
「あいつ、再生してるんじゃない!」
「青い芽が急成長して、枝や葉を補ってるんだ!」
「つまり、あの芽を潰せば再生が止まる!」
俺は叫んだ。
俺。
「翔太!」
「弱い魔法でいい!」
「あの青い芽を狙って攻撃しろ!」
翔太。
「弱い魔法?」
「俺に弱い魔法を撃てと?」
俺。
「今はプライド出すな!」
翔太。
「ファイヤーボールなら短く撃てる」
俺。
「それを使え!」
翔太。
「威力が足りん!」
俺。
「今は威力いらないんだよ!」
俺は源さんに向かって叫んだ。
俺。
「源さん!」
「相手の攻撃を分散させるために、ペロンティと一緒に空から攻撃してくれ!」
「俺は前から行く!」
源さん。
「了解じゃ!」
源さんはペロンティを見た。
ペロンティは、何かを察したように鼻を鳴らした。
ペロンティ。
「ヒヒン!」
俺。
「ん?」
源さん。
「ペロンティ」
「合体じゃ!」
俺。
「はぃ?」
ペロンティが源さんに向かって走る。
源さんも大剣を構え、真剣な顔で頷く。
光が二人を包んだ。
ニャルル。
「にゃ!?」
翔太。
「なんだ?新技か!?」
俺。
「嫌な予感しかしない…」
光が弾けた。
そこに現れたのは。
源さん。
その背中に、ペロンティが埋まっていた。
ペロンティは硬直している。
翼だけがパタパタ動いている。
気持ち悪い。
そして。
ペロンティの四本足が、なぜか源さんの胸から出ていた。
ちゃんと膝を曲げて、妙にうまく収まっている。
源さん。
「ペロンティ合体」
「飛空モーーード!!」
沈黙。
俺。
「……」
ニャルル。
「……」
翔太。
「……」
オメちゃん。
「合体する意味が分からん」
本当に。
オメちゃんの言う通りだった。
俺。
「誰か俺の異世界ファンタジーの緊張感を返してくれ……」
ペロンティ合体・飛空モードの源さんは、翼を羽ばたかせた。
ふわり。
浮いた。
俺。
「それで飛べるのかよ!」
オメちゃん。
「ペガサスだからな」
俺。
「合体しなくても飛べただろ!」
源さん。
「こっちの方が気合い入るじゃ!」
俺。
「気合いの問題!?」
樹神グランボルグが、空中の源さんへ枝を伸ばす。
源さんは飛び回りながら、枝を斬る。
その間に、翔太が小さな火球を連射する。
翔太。
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
「ファイヤーボール!」
青い芽が次々と焼かれていく。
俺は正面から走った。
枝を避ける。
葉を弾く。
幹に近づく。
樹神グランボルグが俺を止めようと、根を地面から突き出した。
俺。
「邪魔だ!」
剣で根を斬り払う。
さらに踏み込み、後ろに回り込む。
幹の後ろの中央。
そこに一番大きな青い芽があった。
俺。
「そこか!」
樹神グランボルグが全ての枝を俺に向ける。
ヒュヒュヒュヒュヒュッ!!
刃の葉が飛ぶ。
その瞬間。
空から俺に向かって源さんが叫んだ。
源さん。
「デカいのお見舞いしてやれ!!」
源さんが大剣で枝をまとめて薙ぎ払う。
翔太の火球が周囲の芽を焼く。
ニャルル。
「今にゃ!」
俺は剣を握り直した。
腕が光る。
さっきよりも強く。
俺。
「エンド・オブ・ストラーーーッシュ!!」
ザンッ!!
幹の中央の青い芽が、真っ二つに割れた。
樹神グランボルグ。
「ギ……ギギ……」
枝の動きが止まる。
葉が落ちる。
幹がひび割れる。
そして。
巨大な大木は、灰のように崩れていった。
静寂。
俺は肩で息をした。
俺。
「はぁ、はぁ、倒した……?」
ニャルル。
「倒したにゃ!」
翔太。
「俺の作戦通りだな」
俺。
「どこがだよ!」
翔太。
「最初から青い芽を狙わせる気だった」
俺。
「詠唱してる間ずっと必死だったじゃないか!」
翔太。
「……あれは演技だ」
俺。
「嘘つくな!!」
【剣聖がまさかの主人公】
【期待はずれの展開】
【思ったより、面白かった】
【勇者がまさかのネタ枠】
【オメちゃんどこ?】
源さんがゆっくり地面に降りてくる。
背中にペロンティを埋めたまま。
俺。
「まず戻れ!」
源さん。
「おお、そうじゃった」
光が消える。
ペロンティが源さんの背中から、ぽんっと抜けた。
源さんも元の爺さんに戻る。
源さん。
「ふぅ……腰が痛いのぉ」
俺。
「さっきまで空飛んでた人の台詞じゃない!」
ペロンティ。
「ヒヒン」
オメちゃん。
「『我の翼がなければ終わっていたな』と言っている」
俺。
「一番意味分からん合体だったけどな」
ニャルル。
「でも配信映えしたにゃ」
翔太。
「俺の魔法も映っていたか?」
ニャルル。
「半分くらい木で隠れてたにゃ」
翔太。
「なにーーー!?」
俺たちは、崩れた樹神グランボルグの跡を見た。
灰になった木片の下に、細い道が現れていた。
今まで木の根に隠されていた道。
灰色の石段。
山の奥へ続いている。
オメちゃんが、珍しく黙った。
俺。
「……これ」
「図書館への道か?」
オメちゃん。
「たぶんな」
ニャルル。
「奥、暗いにゃ」
翔太。
「いかにも禁書がありそうな道だな」
源さん。
「わし、そろそろ帰りたいんじゃが」
俺。
「ここまで来て!?」
その時。
石段の奥から、冷たい風が吹いた。
それまで鳴いていた鳥の声が、ぴたりと止まる。
森が静まり返った。
まるで。
ここから先に進むなと、山全体が言っているみたいだった。
俺は剣を握り直す。
俺。
「行くか」
オメちゃんは何も言わない。
ただ、石段の奥をじっと見ていた。
俺たちは、灰の図書館へ続く道へ足を踏み入れた。




