誤算と未来の扉
翌朝八時半。
ヨシオは緊張した面持ちで指定された学校の校門前に立っていた。
柚希は制服姿で隣にいる。
「大丈夫だからね」
彼女は兄を励ますような口調で言った。
「ああ……そうだな」
ヨシオは襟元を整えながら答えた。
校舎に入るといきなり体育教師と思しき男性に声をかけられた。
「君が春野くんかな?」
「はいそうです」
ヨシオは敬礼するように頭を下げた。
「僕は担任の山田だ」
男性教師は笑顔を見せた。
「今日は気楽に話そう。堅苦しい挨拶は抜きで」
面接は意外なほど和やかに進行した。
学校側としては人員不足を解消する目的があるようでヨシオに対する要求水準は高くないらしい。
特に五十歳以下の男性教職員が極端に少ないとのことだった。
「正直なところ採用できる確率は高いと思うよ」帰り際山田教師が囁いた。
「ただ一点だけ気になることがある」
「なんでしょうか?」
ヨシオの背筋が伸びた。
「柚希さんについてなんだが……」
教師は辺りを見回してから小声で続けた。
「少し過保護じゃないかな?例えば昨日君がこっそり柚希さんの部屋に入った時の様子とか」
ヨシオの血の気が引いた。バレていたのだ。
「そ……それは……」
…ヨシオはハッとして我に返った。
また幻聴か…。
「…誤解しないでほしい」
山田教師は言った。
「単なる杞憂だと思うけど柚希さんは感受性が強いから心配なんだ」
その言葉に救われる思いがした。
「申し訳ありません」
深々と頭を下げる。
「謝らないでくれ」
教師は肩を軽く叩いた。
「じゃあ来週から来てもらおう。よろしく頼むよ」




