失意の夜
橋の下のブルーシート小屋はいつにも増して寒々しく感じられた。
夕暮れの風が隙間から忍び込み、ヨシオの体を震わせる。
埃っぽい床に横たわりながら、彼は目を閉じた。
真実に送った「疲れた」という簡素なメッセージが唯一の心の支えだった。
携帯の画面が点滅し、新着メッセージを知らせる。
『大丈夫ですか?何かあったらすぐに言ってください』
その文面を読むだけで胸が締め付けられる。
こんな優しい言葉を向けられていい人間じゃないのに、と自己嫌悪が込み上げてくる。
「俺みたいな人間には……」
呟きは暗闇に吸い込まれていった。
深夜、激しい風雨の音で目が覚めた。
雨粒がテント代わりのブルーシートを叩きつける。
隙間から吹き込む雨滴が顔に当たる感覚で完全に覚醒した。
「畜生……」
ヨシオは上半身を起こし、濡れた地面を見つめた。
水溜りが出来始めている。
避難所への移動を検討すべきか悩む。しかし昨夜の災難で人混みは避けたい。
―――
「春野さん」
突然呼びかけられ、ヨシオは反射的に振り返った。
誰もいない。
幻聴だと理解するまで数秒を要した。
「しっかりしろ……」
自分に言い聞かせたが効果は薄い。
ヨシオは枕元に置いているしおれた財布を探した。
以前、仕事を辞め心を病んで心療内科に通院していた時に貰った薬があるはずだ。
「あと3錠残っている」
いざという時の為にとっておいた精神安定剤だ。
1錠飲むと、強張った筋肉がスゥーとほぐれていく感じがした。
「ふぅ…」
これで大丈夫だ。
「残り2錠か……大事に使わないとな」
疲労と精神的ストレスで幻覚症状が出始めている兆候だった―




