## 零細生活者の生態 ### 第二十四章 惜別の刻②
「分かった」
ヨシオの声は意外なほど穏やかだった。
突き返された一万円札を花音が受け取る。
「でも」
彼はポケットに手を入れながら続けた。
「このお金は気持ちだけ受け取るよ」
「ヨシオ叔父さん……」
柚希が一歩踏み出そうとした。
「今日はこれから空き缶拾いに精を出すつもりなんだ」
彼は晴れやかに言った。
「汗だくになって歩けば、今日一日で一万円くらいすぐに稼げるさ」
少女たちの表情が曇った。
嘘だと分かっていても、それを指摘する言葉が見つからない。
「だから心配するな」
ヨシオは爽やかな笑顔を作った。
「俺は大丈夫だ。今までだって一人でやってきたんだから」
花音は黙って頷いた。
紗月は目を逸らした。
柚希だけが食い下がった。
「でも……本当に……」
「帰れと言ったろ」
ヨシオの語気が強くなる。
「これ以上関わると本当に後悔することになる」
少女たちは沈黙した。
風が吹き抜ける河川敷に四人だけが残される。
「じゃあね」
花音が先に動いた。
彼女は深々とお辞儀をすると、踵を返して歩き出した。
紗月もその後に続いた。
彼女は一瞬立ち止まり、
「いつでも相談に乗ります」と小声で言ってから走り去った。
柚希だけが残った。
彼女の頬を一筋の涙が伝う。
「なぜ泣く?」
ヨシオが問いかけた。
「分からない……でも……」
柚希は袖で涙を拭った。
「叔父さんが一人で寂しい思いをしてるのが……怖い」
ヨシオは言葉に詰まった。
彼女の純粋な思いやりが痛かった。
「俺は一人の方が楽なんだ」
それが本心かどうか彼自身にも分からなかった。
「また明日来るね」
柚希は最後に告げると、駆け足で去っていった。
ヨシオは彼女の背中が見えなくなるまで動けなかった。
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