## 廃棄の王国 ### 第十七章 橋下の王様⑤
「真実ですから」
花音はヨシオの左手を包み込むように持った。
「柚希さんはあなたを守ろうとしているんですよ」
「逆だ」
ヨシオは思わず言った。
「俺が彼女を守らなければ……」
「でも方法を知らない」
花音が言葉を継いだ。
「だから逃げた」
二人の間で真実が宙に浮かんでいる。
ヨシオは認めざるを得なかった。
自分が恐れているのは法でも社会でもなく—
柚希との距離が縮まることへの恐怖だった。
「俺は……どうすればいい?」
ヨシオの声は掠れていた。
花音はじっと彼の目を見つめた。
「まずは自分を救うことです」
その言葉の意味を考える暇もなく、花音は立ち上がった。
「そろそろ行かないと母が心配します」
「待て」ヨシオは反射的に呼び止めた。
「また会えるか?」
花音は不思議そうな表情を見せたが、
すぐに笑みを浮かべた。
「あなたが望むなら」
「本気で?」
「もちろんです」
花音は軽やかに歩き始めた。
「柚希さんより先に私の心を射止めたいですか?」
ヨシオは言葉を失った。
花音の冗談めいた言い方は危険なほど魅力的だった。
「冗談です」
彼女は振り返らずに言った。
「でも本当ですよ。あなただって苦しんでいるのなら……誰かが必要でしょう?」
夕暮れの光の中で花音の背中が小さくなっていく。
ヨシオは彼女の言葉を反芻しながら缶の山を見つめた。
自分を救う—
それが最初の一歩なのだ。
そしてそのためにはまず……
「一歩一歩だな」
ヨシオは呟いた。
集めた缶を袋に詰め直すと重い足取りでスクラップ屋へ向かった。
100円硬貨を十枚数えながらヨシオは新たな決意を固めていた。
柚希への責任を果たすためにも—
まずは自分の居場所を作らなければならないと。




