奇跡の復活
一方その頃手術室では――
**ヂッ!**
メスが血管を焼灼する音と共にヨシオの生命線が次々と繋ぎ止められていく。
出血量は既に危険水域に達していた。
「もう少し!」
教授と呼ばれる柚希の母親が額の汗を拭う。
「頑張ってお兄さんあと少しです」
---
**特別観察室**
「すごい……」
柚希が思わず漏らした感嘆の声を真実が制する。
「集中しなさい!」
彼女は公安特別監視官としてモニタリング中だ。
しかし目元には明らかな焦燥が浮かんでいる。
「叔父さんは?」
「峠は越えたみたいだけど……」
言い淀む凛太郎の様子に一同の空気が凍る。
医学生としても予断を許さない状況だと理解できたからだ。
その時病院内に警報が鳴り響いた。
**ビー!ビー!**
「何!?」
柚希が慌てるのを他所に真実が耳のイヤホンに手を当てた。
「了解……全館警戒体制で」
---
**病院中央エントランス**
「開門!開門!」
制服警官たちがパニック状態で出口を封鎖しようとする中黒塗りリムジンが突っ込んできた。
**ガシャーン!**
ガラスが飛び散る音と共に降車したのは花音だった。
伯爵令嬢を包むオーラは最早一般人ではない。
「さぁ行きましょう」
優雅な仕草で手招く先には拘束具をつけられた紗月。
抵抗空しく連れられている。
「伯爵様何の騒ぎですか?」
警備員長が脂汗を垂らす。
「お話は後に」
扇子をサッと振るうと部下たちが一斉に敬礼した。
実質的な支配力を前に誰も逆らえない。
「どいて!」
遅れて駆けつけた柚希が立ち塞がるも一顧だにせず花音は通過した。
背後で凛太郎の制止が空しく響く。
**ゴンッ!**
鈍い打撃音と共に柚希が床に崩れ落ちる。
紗月の手下たちによって拘束されたのだ。
「離して!」
「悪いわね」
紗月が苦笑しながら通り過ぎる。
首には依然として扇子型拘束具が嵌まっている。
「楽しもうねヨシオさん」
---
**手術室隣 推定死亡宣告室**
心電図が平坦な直線を示す中柚希の母親である外科医の教授が深いため息をついた。
「残念だが……」
**ドン!**
重厚な扉が開く音と共に白衣ではない人物が姿を現す。
「まだ死んでませんわ」
花音の登場に医師たちは困惑した顔を見合わせた。
「許可証は?」
「こちらに」
袖から取り出した紙切れに記載された名前は花音の母親――伯爵夫人だった。
**コンコン**
ノック音と共にスーツ姿の女性が入室する。
「麻酔科長の山田です」
「お願いします」
花音の命令一下で救命チームが再編される。
心臓マッサージ再開・電気ショック準備……そして未知の薬剤注入へと展開した。
「これは……」
教授が液体の色合いを確かめる。
「私が開発した新薬よ」
花音の瞳に狂気の光が宿る。
「生きる意志があれば反応するはず」
---
**同刻 外部待機室**
「何が起きている!?」
雅也がモニター越しに様子を窺う。
国会での演説を終えて駆けつけたのだ。
「伯爵夫人からの緊急移送指令です」
職員の報告に戸惑う首相候補。
「まさかヨシオ君を実験台に……」
「違います」
真実が厳しい声で否定する。
「彼らはある目的のために生き永らえさせようとしているんです」
「なんだって?」
その瞬間廊下を走る足音。
**ザッ!**
飛び込んできたのは血だらけの紗月だった。
花音の手引きで解放されたらしい。
「遅かったじゃない」
「くそっ……」
罵声を浴びせる彼女の表情には複雑な感情が滲んでいる。
愛憎入り混じった対象を見失ったかのような焦燥感だ。
---
**手術室中央**
**ズドンッ!**
AEDが稲妻のようなエネルギーを放出する。
痙攣するヨシオの肉体。
「再度マッサージ!」
「酸素濃度低下!」
混乱の中で花音だけが冷静だ。
「最後のチャンスよ」
注射器に新薬を吸い上げる姿は魔女の儀式にも似ている。
**トクン……トクン……**
心音が微かに戻り始めた。
奇跡とも言える回復劇に医師たちから感嘆の声が漏れる。
「生きている!」




