生と死の境目
花音が遠くの病院施設を指差した。
夜空に浮かぶ救急搬送用ヘリのライトが妖しく輝いている。
「あそこで待っていますわ」
「そうね」
紗月が微かに微笑む。
「ヨシオさんが目覚めるまで遊びましょう」
二人は互いに支え合いながらゆっくりとヘリポートを後にした。
その背後で警備員の死体が月明かりに照らされていることも知らずに……
**都内最大規模総合病院 手術室前**
蛍光灯の明滅が不安を煽る廊下で柚希が祈るように手を握りしめていた。
背後から忍び寄る二つの影に気づく余裕もない。
「……ヨシオさん」
**キィィィィッ!**
甲高いブレーキ音と共に救急車が到着する。
ストレッチャーが疾走する度にヨシオの体が揺さぶられる。
「安定しない!」麻酔医の叫び声。
「輸液速度上げろ!」外科医の号令。
**ピッ、ピッ、ピーーーーッ**
心電図が不規則なアラームを鳴らす中手術室の扉が開いた。
白衣の天使たちが神聖なる領域へ患者を迎え入れる。
---
**同時刻 別棟VIP特別室**
「ふぅ~ん」
ベッドサイドで紗月が興味深そうにモニターを覗き込む。
監視カメラシステムと病院システムの両方が彼女の手元で同期しているのだ。
「これで全部わかっちゃうんだ~♪」
「さすが紗月さん」
花音が感心したように扇子を閉じる。
しかし瞳には別の熱情が宿っていた。
「でも……残念ながら」
「え?」
紗月が振り向いた瞬間――
**ガンッ!**
鈍い打撃音が響く。
花音のハイヒールが紗月の太腿を蹴り抜いたのだ。
激痛に顔を歪めるも伯爵令嬢は微笑を崩さない。
「油断は禁物と言ったでしょう?」
「ちょっ……」
紗月が抗議の声を上げようとした刹那二枚貝のごとき扇子が彼女の口を塞いだ。
花音の冷たい眼差しが蛇のように這う。
「大人しくしていてくださる?」
耳元で囁かれる声には殺意にも似た威圧感が籠っている。
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