## 雨の約束 ### 第十四章 溢れ出るもの④
雷光が一瞬だけ二人の姿を照らし出した。
ヨシオの躊躇いと柚希の決意。
そして互いに抗えない引力。
「ダメだ」ヨシオはついに声を絞り出した。
「これ以上進んだら取り返しがつかなくなる」
「もう遅いわ」
柚希の言葉には諦めと覚悟が混ざっていた。
「私の初めてのキス……知らない人のものになるより」
「俺は"知らない人"じゃない」
「だったらなんで今まで避けてきたの?」
柚希の目から新たな涙が流れ落ちた。
「本当は怖いんでしょ?私の両親に責められるのが」
その指摘は的確すぎて痛かった。
ヨシオは黙り込み、
雨音だけが二人を包み込んだ。
「分かったわ」
柚希は突然力を抜いた。
「もう無理強いしない」
彼女の腕が緩み、距離ができる。
その喪失感にヨシオ自身も驚いた。
「ただし条件がある」
柚希は立ち上がりながら言った。
「今夜だけ私の家に泊まって」
「何だって?」
「叔父さんには選択肢がない」
彼女の声には命令のような強さがあった。
「私を捜し出して抱きしめた時点で覚悟はできてるはずよ」
ヨシオは黙って傘を閉じた。
雨の中を歩き始める柚希の後ろ姿に従うしかない。
「お前が望むなら」
彼の足取りは重かった。
「でも決して誤解しないでくれ。俺は……」
「分かってる」
柚希は振り返らずに答えた。
「愛でも恋でもないんでしょ?単なる義務感か同情か」
「それ以上だ」
ヨシオは雨の中でも聞こえるように言った。
「でも何なのかは俺自身もまだ整理できてない」
二人の足音だけが濡れた路面に響く。
曇天の下、傘を差すことも忘れて歩く影。
彼らの関係がどこへ向かうのか—本人たちにも見えなかった。
ただ今夜だけは互いを必要としている。それが全てだった。




