閣議の波紋
「この家から退去してもらう件だが――」
雅也の言葉に柚希の顔色が蒼白になる。
リビングでパソコン操作中の凛太郎もキーボードを叩く手を止めた。
「延期する」
予想外の一言に一同が沈黙した。
事務次官就任目前の官僚の決定は簡単ではないはずだ。
「ただし条件がある」
鋭い眼光がヨシオに注がれる。
「近日中に提出する書類に署名を。内容は――」
その時玄関チャイムが鳴った。
**ピンポン**
「時間だな」
雅也が腕時計を見て立ち上がる。
「詳細は夕方帰宅後に話そう」
扉が開くとSPを従えた高級公用車が停まっていた。
黒塗りのヴェルファイアから降り立った秘書が一礼する。
「お時間になりました」
「ああ」
スーツケース片手に颯爽と歩き出す父親の後ろ姿に柚希が声をかける。
「気をつけてね父さん」
振り返らず手を上げる雅也。扉が閉まり車が発進すると柚希が深く溜息をついた。
「よかった……暫く猶予ができて」
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**夕刻 六時**
リビングのテレビから速報が流れる。
『本日夜臨時閣議にて重要法案が可決されました』
キャスターの声に釘付けになる一家。
『労働市場活性化法改正案及び刑事司法制度改革法案……』
「叔父さんの再審に関係あるかも!」
凛太郎がニュースサイトを開く。記事タイトルに『冤罪被害者支援強化』の文字が踊る。
「これです!」
柚希が手元の資料を掴む。
「お父さん宛ての報告書よ」
ペラペラとページをめくると最後の項目に目が留まった。
**【第7条】冤罪被害者の早期収容措置**
「収容?」
不安げな表情の柚希に凛太郎が説明する。
「保護プログラムの一種だよ。政府が認めた犯罪被害者を一定期間管理下で保護する制度」
ヨシオは黙って聞いていた。
刑務所生活を想起させる名称に鳥肌が立つ。
「叔父さんが該当すれば父さんとの約束も覆るかも」
期待に満ちた弟の声に柚希が頷く。
「明日……お父さんに相談しましょう」




