蛇に睨まれた蛙
**リビング移動後**
「順番に話すよ」
凛太郎がホワイトボードを持ってきてペンを握る。
まるでプレゼンテーションのようだ。
「まず叔父さんは昨晩宿泊先の簡易テント小屋で負傷しました。殴打されたようです」
「誰に?」
雅也の単刀直入な質問に兄弟姉妹が目配せをする。
「警察官です」
ヨシオが自分で答えると父親の眉間に深い皺が刻まれた。
「警察だと?」
雅也の眼光が鋭く光る。
「医療機関へ搬送されて病院で簡単な治療を受け路上に倒れていたんだ」
凛太郎が詳細を補足する。
「それを柚希姉ちゃんが探し回って……」
「見つけました!」
柚希が突然大声で宣言した。
ここまで口を噤んでいた彼女の声が室内に響く。
「叔父さんは必死で生きてるの。怪我が酷くて病院も頼れないから……」
熱弁しようとするが雅也の一睨みで萎縮してしまう。
「言いたいことはわかる」
父親が深く息を吐いた。
「だがな柚希。そんなリスクを冒してまで拾う価値がある男かどうか判断できるのか?」
核心を突かれたように少女の瞳が揺れる。
「あります!」
泣き出しそうな顔で絞り出す娘を見つめる父親の表情は変わらない。
無表情の中に潜む愛情を見極めるには時間がかかりそうだ。
「彼は我々にとって……」
「大切な人です」
凛太郎が弟として援護射撃を行う。
「社会的に困難な立場の人間を助けることが医者としての使命だと教えられました」
少年の理性的な口調に父親の眼光が僅かに和らいだように見えた。
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**二十分後**
「一週間」
雅也が唐突に期限を設けた。
「その期間以内に自己に対する改善を見せなければ即退去してもらおう」
条件提示という形で家族内の合意形成を図る交渉術だ。
「わかった」
ヨシオが素直に頷くと雅也は意外そうな目つきをした。
「反抗しないのか?」
「逆らう理由がないですから」
謙虚な回答に父親の表情が初めて微妙に弛緩する。
「ならば治療に専念してくれ」
短い命令口調で言い放つ。




