夜の通知
**ピコン!**
深夜0時を過ぎた闇の中でスマホの通知音が鳴った。
ベッドサイドテーブルに置かれたヨシオの携帯電話が薄く発光する。
「……ん」
柚希の細い眉毛が僅かに動いた。
深い眠りに入っていた体が無意識に反応している。
(何時だよ……)
ヨシオは目を開けずに呟く。
肋骨の痛みは鎮痛剤のおかげで鈍く和らいでいたが疲労感は消えていない。
手探りでスマホを掴もうとした瞬間――
**ピコン!ピコン!ピコン!**
立て続けに通知音が鳴る。
「……鬱陶しいな」
苛立ちと共に目を開けたヨシオの視界に表示されたアイコンはSNSアプリ。
差出人は『紗月』。
画面に映る文字列が意識を一気に覚醒させた。
『今日の約束の時間に公園に来なかったね。2時間も待ってたのに……。今何してるの?』
(しまった!)
脳裏に今日の出来事がフラッシュバックする。
暴行沙汰→警察沙汰→柚希に救出される→凛太郎の処置→そのまま柚希宅に泊まる――
そう、完全に忘れていたのだ。紗月とのデートの約束を。
**ピコン!ピコン!**
催促するように何度もメッセージが飛んでくる。
指紋認証解除の前にヨシオは思考を巡らせた。
(どう説明すれば……)
弁解の言葉を考えている間に別の通知が表示された。
『もしかして私のこと嫌いになった?』
『なら返事くらいしてほしいんだけど』
『何かあったの?教えて』
**ピコン!ピコン!ピコン!**
立て続けの追撃に焦りが募る。
返事をせずとも既読マークは既に付いてしまった。
「うぅん……」
隣で寝返りを打つ柚希の寝息が乱れる。
薄く開いた瞼から翡翠色の瞳が覗いた。
「……何?スマホの音……」
睡魔に抗いながら視線を向ける少女の表情はまだ半分夢の中だ。
「悪い、起こしちまったか?」
ヨシオが小声で応えると柚希は目をこすりながら頷いた。
「いいよ……気にしないで……」
再び微睡みかけたその刹那――
**ピコン!ピコン!ピコン!**
激しい通知音が三度連打される。
ヨシオのスマホ画面が煌々と輝いた。
「誰から?」
興味本位というより生理的な好奇心で訊ねる柚希。
寝ぼけ眼ながらも視線は鋭い。
「……友達だよ」
咄嗟に出た嘘に内心苦笑する。
本当は紗月との待ち合わせをすっぽかした事実を隠したいだけだ。
**ピコン!ピコン!ピコン!**
「しつこいね」
柚希が呆れたように呟く。
横になったままスマホ画面を盗み見たらしい。
「女の子?」
直球の質問に言葉が詰まる。
ベッドの隅っこにある彼女の青紫の寝具が淡く光を反射していた。
「まあ……そんなとこだ」
曖昧に答えつつヨシオは画面を消す。
しかし警告表示は既に遅かった。
『紗月』の名前が大きく表示されていたのを柚希は見逃さなかっただろう。
**ピコン!ピコン!ピコン!**
「気になるなら返事したら?」
他人事のような言い方に安堵しかけた瞬間――
「私……眠いから先に休むね」
柚希が毛布を被り背を向ける。
その背筋が少し丸まったように見えたのは気のせいだろうか?
**(やばいな……)**
罪悪感に苛まれながらヨシオはゆっくりと体を起こした。
痛みよりも精神的な重圧の方が大きい。
「ありがとう……明日話そう」
申し訳程度の謝辞を述べるが返事はない。
暗闇に包まれた部屋で静寂だけが支配する。




