静かな告白
**「もう大丈夫だよ」**
凛太郎の声が柔らかく響く。
手当てを受け終えたヨシオが促されるまま客間へ移動する。
ダブルベッドの上質なシーツが肌に触れる感触は久しぶりだった。
「しばらくは無理しないで」
少年医師が忠告すると同時に処方薬を手渡す。
鎮痛剤のパッケージに医師名らしきアルファベットが印字されていた。
「ありがとな……君は命の恩人だよ」
ヨシオの掠れた声に凛太郎は小さく首を振った。
「これくらい当然さ。叔父さんは僕たちの大切な家族なんだから」
ドアが静かに閉まりベッドサイドランプだけが点灯した室内。
隣には柚希が椅子に腰掛けていた。
「楽になった?」
心配そうに覗き込む少女の顔に夕日が斜めに射し込む。
「あぁ……少しは」
処方薬を水で流し込むと舌先で苦味を感じる。
それと同時に四肢の緊張が解けていった。
「良かった……」
ほっとしたような溜息と共に柚希が肩を落とす。
一日中ヨシオを探し回り病院から連れ出した疲れが表れている。
「君こそ休んでいいよ」
「大丈夫だって」
強がる少女の瞼が重そうに見える。
そのうち小さな欠伸が出た。
「やっぱり無理してるな」
指摘すると柚希は苦笑した。
椅子から立ち上がりつつも意識は朦朧としているようで……
「……少しだけ」
ベッドの端に腰掛けると瞬く間に前屈みになってしまった。
「おいおい……」
ヨシオが慌てて上体を起こそうとするが脇腹の疼痛に阻まれる。
その間に柚希の体がバランスを崩し―
**ドサッ**
横向きにベッドへ倒れ込んでしまい
ちょうどヨシオが柚希を膝枕する状態になった。
「お、おい大丈夫か?」
「叔父さん......ずっと側にいてほしい......」
「私やっぱり叔父さんのことが大好き......」
ヨシオの腰に手を回す柚希。
目尻には一筋の涙が滲む。
柚希からは女子高生特有のティーンらしい甘ったるいバニラの様な香りと
若い果実の様な柑橘系の爽やかな匂いと
若干の汗ばんだ熱気が混ざり合いヨシオの理性を激しく揺さぶる。
ヨシオは堪らず柚希を抱きしめる。
「柚希......もう離さない」
「俺も柚希が好......」
「スゥ......」
規則正しい寝息が聞こえ始める。
---
**三分後**
部屋を訪れた凛太郎が状況を見て吹き出した。
「なんだか不倫現場みたいだね」
揶揄われて赤面するヨシオに対し少年は真顔で付け加える。
「冗談だよ。姉さん起きちゃうだろ?」
悪戯っぽくウインクした後キッチンへ向かう背中を見送りヨシオはため息をつく。
「まったく……」
寝入った少女の無防備な姿に困惑するものの拒否感はない。
むしろ安心感に包まれていた。
(こんな穏やかな時間を与えてもらえるなんてな……)
ホームレス生活では考えられない贅沢なひとときだ。
---
**さらに五分後**
戻ってきた凛太郎の手には毛布があった。
「柚姉ちゃん寒がりだから」
手渡されたタオルケットを慎重に広げながらヨシオは思う。
(こういう気遣いができる奴なんだよな)
姉思いの弟の優しさに感心する一方で……
**(美しいな……)**
寝顔を見つめるうちに胸が高鳴るのを感じた。
長いまつ毛と陶器のような肌は童話の妖精を思わせる。
無垢な天使が自分を慈しんでくれている現実を信じ難く思う。
「叔父さん?」
少年の声で我に返る。
慌てて視線を逸らすと凛太郎がニヤリと笑った。
「好きな子を見とれて嬉しいんだね?」
核心を突かれヨシオは言葉に詰まる。
「そういうわけじゃ……」
言い訳しかけたところで少年が片手を挙げた。
「わかってるよ。僕だって柚希姉ちゃん好きだし」
「それはまた別の意味だろ?」
「そうかな?」
含みのある笑顔を向けられた瞬間ヨシオの胸に新たな悩みの種が芽生えた気がした。
---
**毛布をかけ終え**
再び二人きりの空間となる。
ヨシオは痛みを堪えながらそっと柚希の髪を撫でた。
指先に伝わるしっとりとした感触が懐かしい。
かつて実家にいた頃―幼い彼女が眠る度同じように触れていた記憶が蘇る。
**「叔父さ~ん!」**
無邪気な声と共に幼い柚希が駆け寄ってきた情景。
当時は気づかなかったが今となっては宝物のような思い出だ。
(大きくなったなぁ……)
感慨に耽る中で鎮痛剤の作用か微睡みが始まる。
意識が薄れていく最中にも少女の呼吸音と体温を感じている幸福を噛みしめた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。あっという間に200話に到達!今後は誰も予想だにしないスリリングな展開が待っていますので、乞うご期待下さい。
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