秀才の手当て
**電子音と共にエレベーターのドアが開く**。
十二階角部屋へと続く通路を柚希に支えられて進むヨシオ。
タクシーでの抱擁から数十分―
未だ頬に残る温もりと柔らかさが妙に生々しい。
「ただいま」
玄関ドアを開け放つとリビングから軽快な足音が近づいてきた。
**「おかえり……あれ?」**
現れたのは色素の薄い髪を短く刈り込んだ少年。
身長百六十センチ弱ながら均整の取れた体型をしている。
「凛太郎……」
ヨシオの脇腹が疼いた。
紹介しようとする柚希を遮って凛太郎が目を見開く。
「叔父さん」
一瞬で状況を把握したかのような反応。
十四歳とは思えぬ聡明な眼差しだ。
「またケガしたんだね」
言いながら靴箱から救急箱を引っ張り出す。
中学生離れした正確な動作で包帯や冷却剤を選別していく。
「……助かる」
ソファに崩れ落ちるヨシオ。
血染めの衣服から滲み出た臭気に自分でも顔をしかめる。
しかし凛太郎は動じることなく手際よく準備を進める。
「柚姉ちゃん」
姉へ指示を出す声には余裕があった。
「お湯と清潔なタオルお願い」
「わかったわ!」
キッチンへ駆け込む姉を見送り凛太郎がしゃがみ込む。
目の高さを合わせた医療者のような姿勢だ。
「まず患部確認させてもらうよ」
指先がジャケットを捲り上げる。
痣と腫れ上がった皮膚が露わになると少年の眉間に皺が寄った。
「肋骨一本は確実に……捻挫もあるかな」
分析的な口調にヨシオは内心舌を巻く。医学部受験レベルの知識量ではないか。
「これでも医者志望なんだよ」
ヨシオの心中を読み取ったかのように凛太郎が苦笑する。
白い歯が照明に反射した。
「アメリカの医科大学で勉強中なんだ」
さらっと明かされる情報に唖然とする間もなく湿布が丁寧に貼られる。
薬品独特の刺激臭が漂うが不思議と心地良い。




