秀才の治療
「叔父さんはいつも危なっかしいよね」
包帯を巻きながら凛太郎が呟く。
皮肉とも同情とも取れる声音だ。
「前は酔って階段から落ちて……その後は川辺で風邪引いて」
過去の失敗談が次々と暴露されヨシオは赤面した。
姉弟達の中で唯一尊敬できる存在への気恥ずかしさと情けなさが入り混じる。
「まあ……人生経験豊富ってことで」
冗談めかして誤魔化すと凛太郎が笑みを浮かべた。
少年期特有のあどけなさが垣間見える瞬間だ。
「痛み止め飲んどこうか」
処方薬らしき紙袋を取り出す手付きに迷いはない。
薬剤師免許も取得済みなのかと勘繰ってしまうほどだ。
「柚姉ちゃん!」
ちょうど戻ってきた姉へ冷水グラスを要求するタイミングも完璧だった。
「ありがと」
手渡された湯桶でタオルを絞る音がする。蒸気が部屋の温度を上げていく中で凛太郎の独白が始まった。
「僕が幼い頃から……叔父さんは特別だったんだ」
懐かしむような口調にヨシオは過去を顧みる。
両親の不在が多かった彼ら姉弟を遊び相手にして過ごした日々――
「怪我してもちゃんと立ち上がるところとか」
言葉選びに含まれる敬慕の念に戸惑う。
天才児でありながら家族愛も併せ持つ少年の純粋さに胸を打たれる。
「偉いねって思うんだ」
少年の手が包帯の上から優しく圧迫固定する。
確かな知識に基づいた手技に安心感を覚える一方で……不甲斐なさが込み上げてきた。
「医者になりたい理由」凛太郎が続ける。
「苦しむ人たちを自分の手で助けたいから」
その言葉がヨシオの魂に突き刺さる。
人生半ばで挫折した自分に対して―未来への確固たる意志を持った若者が目の前にいる現実。
「叔父さんのお陰かもしれないよ」
唐突な感謝の表現に困惑するヨシオへ凛太郎が微笑む。
「どんな境遇でも前向きに生きる姿が励みになったんだ」
視線が交錯する刹那―十四歳とは思えぬ大人びた眼差しに飲み込まれる感覚。
**「さあ終わり」**
処置完了の合図とともに包帯の結び目がかちりと締められる。その一連の動作は外科医さながらの洗練さだった。




