血の染み
「ありがとう」
「今回はばっかりは厄介になろかな、この体じゃ残飯あさりもできないし」
「ちょっと待ってて」
少女はヨシオを柱に凭れさせて立ち上がった。
スマートフォンを取り出し何やら短いメッセージを送信している。
「これでタクシー呼んだから安心して」
制服の袖で目元を拭いながら微笑む。
涙の痕跡は既に引いていた。
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**タクシーが滑り込んできた。**
後部ドアが自動で開くと同時に柚希が先に乗り込み手を差し出す。
「乗れますか?」
「ああ」
応じたものの脇腹の激痛で足元がふらつく。
柚希の細い腕が老いた体重を支えようと踏ん張る。
「よいしょ……っと」
彼女が力を込めた瞬間ヨシオのジャケットから血の滲んだ汗が滴り落ちた。
**ボトッ**
真っ白なセーラー服の肩口に赤黒い染みが広がる。
純白のキャンバスに墨汁を垂らしたような惨状だ。
「あっ……」
柚希が小さく悲鳴を上げる。
しかし次の瞬間には気丈な表情に戻り運転手に告げる。
「行き先をお願いします」
住所を聞き終えた運転手が静かにアクセルを踏む。
エンジン音だけが響く車内で柚希が無言でハンカチを取り出した。
「あまり動かないで」
傷口を直接触れぬよう慎重に血痕を拭き取る。
しかしヨシオの身体から流れ出る汗と痛みの脂汗が次々と染みていく。
「ごめん……汚してしまった」
「大丈夫よ」
俯く柚希の睫毛が長い影を落とす。
窓ガラスには都会の灯りが星屑のように映り込んでいる。
「叔父さん」
突然の呼び掛けにヨシオが顔を上げると……
「膝を使っていいわ」
助手席側に頭を預けるように指示される。躊躇するヨシオに柚希が強い口調で念を押す。
「怪我人に敬意を払うだけだよ」
言われるままに膝上に頭を載せる。
柔らかい太腿の温もりが火照った脳天を包む。
「痛くない?」
「平気……君こそ重くないか?」
「ぜーんぜん」
彼女の左手がそっと髪を梳く。
その仕草には母性のような優しさが宿っていた。




