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拱門の回想
風が傷口を抉る。
湿布の効果などとうに消えていた。
脇腹を押さえながら一段一段上がっていく階段の先に—見覚えのある景色が広がる。
(何故こんな場所に……)
標高五メートルの高欄から見下ろ す市街地。
中央分離帯に植えられたハナミズキは既に紅葉を迎えていた。
この歩道橋こそ去年の冬……柚希と久し振りに言葉を交わした場所だった。
『叔父さん……汚らしい格好ね。それに臭うわよ』
十六歳の声が鮮明に甦る。
柚希がこの歩道橋で見せた表情—
嫌悪感に彩られた美貌が記憶の中で揺れる。
青味がかった艶やかな黒髪が風に靡き柑橘系のシャンプーの香りが鼻腔を貫いた瞬間。
それはヨシオにとって初恋の匂いと同等以上の衝撃だった。
鉄錆の味が口腔内を充満している。
折れた歯から滲む血潮と警棒の衝撃による嘔吐反射の残滓だ。
咳き込むたびに脇腹が軋み涙が溢れた。
「……くそっ」
空嘔吐に身を捩る。
何も吐き出せないのが皮肉だった。
工場勤務時代は三食規則正しく摂れていたのに—
今や胃袋には埃とカビの生えたパン屑。




