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断崖の淵で
「患者番号4149、春野ヨシオ氏。退室準備して下さい」
看護師の無機質な声にヨシオは瞼を開けた。
白い壁が目に入り、消毒薬の匂いが鼻孔を刺す。
「治療?」
掠れた声で訊ねると中年の医師がカルテを閉じた。
「X線写真では肋骨一本骨折と診断。湿布処置のみで経過観察です。あなた治療代の支払い能力は?」
ヨシオが差し出した百円玉三枚を見て医師は溜息をついた。
「保険証は?」
「持っていません……」
その瞬間態度が豹変する。
「じゃあこれで充分です」
湿布一枚を渡されて廊下へ追いやられる。
レントゲン撮影代だけで一万円近い支払い。
残り三百八十円しかない財布では到底払えない。
翌月末払いの請求書を貰い
「次回は救急車呼ぶ前に保険加入を」と冷徹に言い捨てられ
受付の事務員に背中を押されて玄関へ押し出される。
十二月の冷気が裸足のつま先を刺す。




