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一睡もできぬ夜明け前
午前三時。
夜明け前の最も暗い時間が訪れようとしていた。
ヨシオは目を閉じても眠れずにいる。
湿度九十%の空間で不衛生な寝床の上で─。
「畜生……」
独り言が壁に反響し虫の大合唱を掻き消した。
右腕に痛みを覚えてみると蚊に刺された痕が倍増していた。
痒み止めすら買えぬ貧困層の宿命だ。
ふと目に入ったのは駅で拾った文庫本。
ページの間に挟まれたカフェ引換券と紗月のメモ用紙が象徴のようだった。
『明日 十時に西ゲートにて』
明朝まであと四時間。
約束を破れば何が起きる?
反対に行けば?
想像するだけで心臓が早鐘を打つ。
(あの時みたいに逃げ出すか……)
五年前に工場長から不当な解雇通告を受けた時と同じ轍を踏みたくない。
当時は失職したショックでアルコール中毒へ一直線だった。
今回も逃げたら同じ末路を辿るのは確実だ。
ゴキブリが視界を横切る。
ホームレス生活者にとって日常的な光景だ。




