臭気と葛藤
ブルーシートの隙間から吹き込む夜風がヨシオの体温を奪っていく。
小屋の中は蒸れた畳の臭いと腐敗した魚のようなアンモニア臭が混ざり合っていた。
「くそ……」
悪態をつきながらマットレス代わりの段ボールに倒れ込む。
固い地面が腰椎に食い込む痛みに耐えつつも思考は止まらない。
(柚希は何故あんな場所に?)
学校帰りに寄り道するほど俺のことを探しているのか?
それとも別の目的で……花音に関係があるのか?
考えれば考えるほど記憶のピースが組み合わさっていく。
柚希の制服についていた香水の痕跡。
林聖花との接触時に感じた彼女の作為。
全てが見えない糸で繋がっている気がしてならない。
(紗月は一体どんな魂胆で……)
昨夜のカフェでの提案を思い出す。
『私の家で手伝いをして下さい』
普通の家庭環境なら不可能な話だ。
あの格式高いお嬢様がホームレスを雇うなど社会的にどう受け止められるか。
しかし彼女の態度には一切の照れも卑屈さもなかった。
まるで当然の権利のように振る舞っていた。
(何を企んでいるんだ?)
ヨシオの脳裏を花音の台詞がよぎる。
『彼は天然記念物だもの』
同じ言葉が紗月の口から漏れたとしたら?
監禁状態で奉仕させるつもりか?
それとも―
「よせよ……」
首を振って妄想を追い払う。
妄想といえども興奮が血液に混ざり股間を熱くする。
先日柚希の香りを嗅いだ時とは異なる衝動だった。
ブルーシートの結露が滴り落ちてきた。
冷たい水滴が首筋を伝い汗と混ざる。
まるで監視カメラのレンズを通して見られているような悪寒が走る。




