三百円の贅沢
「お待たせしましたー」
威勢のいい声と共に運ばれた朝定食。
味噌汁と納豆・生卵付き三百円セット。
工場時代の社食を思い出させる簡素な組み合わせだ。
ヨシオは箸を持ち上げた手が震えるのを感じた。
(これが俺の日常だ……)
白米の甘みが口中に広がる。
1週間ぶりに食べる温かい食事が涙腺を刺激した。
頬杖をついてテレビニュースを見るフリをして俯く。
隣席の会社員が怪訝な顔で通り過ぎる。
ホームレスと同一視される恥ずかしさと解放感が入り混じった複雑な心境だった。
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公園の東口から駅方面へ向かう歩道橋。
ヨシオが通りかかるとベンチに腰掛ける柚希の後ろ姿が見えた。
「柚希……?」
呼びかけようとしたがやめて咄嗟に柱の陰に隠れる。
少女が膝に置いた文庫本のタイトルがちらりと見えた。
昨日紗月が置いていった恋愛小説と同じものだ。
「おじさん……どこにいるの……」
独り言を漏らす声がかすれていた。
夕陽が少女の頬を濡らしている。
あれは涙なのか汗なのか判別できない。ヨシオの胸が締め付けられる。
(あの子はまだ俺を探している……)
罪悪感と喜びが拮抗する醜い感情を必死で押さえつける。
ここで出ていけば全てが終わる。
あるいは再出発できるかもしれない。
しかし—紗月との約束がある。




