同業他社の圧
「商売繁盛じゃねぇか。初心者にしては上出来だ」
ホームレスコミュニティにおける暗黙の序列を感じる。
この老人はおそらく「縄張り」の古参だろう。
「ありがとうございます」
ヨシオが礼を言うと老人は鼻を鳴らした。
「でもな、毎日同じ場所でやるのは命取りだぞ」
忠告の意図が不明で戸惑うヨシオに向かって老人はさらに畳みかける。
「警察や駅員の巡回パターンもあるし……何よりな」
彼の目が鋭く細められる。
「他の奴らへの義理もあるってことだ」
「ちょっとついて来い」
老人の無造作な指示にヨシオは黙って従った。
駅前の喧噪から一本裏道に入った瞬間空気が変わる。
カラス避けネットに覆われたゴミ収集所。
その脇に設置されたベンチには数人のホームレスが屯していた。
「ここが穴場だ」
老人が顎で示す先にはコンビニ袋が堆積する一角がある。
「深夜清掃の奴らがまとめ忘れることがある」
実際に近づくと文庫本やコミックが数冊落ちていた。
商品管理の厳しさ故に売れ残りはすぐに撤去されるが—
レジ打ちミスなどで偶発的に放置されるものもあるらしい。
「ありがとうございます」
礼を述べると老人は小さく笑った。
「その金で飯でも食えや。ただな……」
振り返らず去り際に呟く声。
「明日は来るな。ポリ公の巡回日だ」




