後悔の念
熱い平手がヨシオの頬を襲い—世界が一瞬で逆転した。
「嘘つき……!」
柚希の震える拳が胸元を叩く。
最初は弱々しい打撃だったが徐々に勢いを増していく。
爪が肉を抉る痛みよりも心臓に直接突き刺さる「嘘つき」という言葉の方が遥かに鋭く響いた。
「嘘つきだよおじさんっ……!」
繰り返される非難の言葉。
柚希の掌に残る塩辛い涙の味がヨシオの唇に移った。
(違う……あの時言ったのは……)
頭の中で言い訳が渦巻く。
携帯を失くしたなどという稚拙な嘘ではない。真実はもっと残酷で—
「もう二度と会わない方がいい」
そう告げたあの日から始まった
「嘘つき……!」
柚希の拳がヨシオの胸を連打する。
制服のワイシャツ越しに伝わる鼓動が不規則に乱れていた。
彼女の打撃には殺意ではなく懇願が籠っている。
(どうして……こんなことに)
ヨシオの頭脳は混乱の極致にあった。
つい数秒前まで姪の柔肌に溺れていた男が今は幼女のように泣きじゃくる少女の前に無力に跪いている。
掌に残る少女の熱と汗の香りが急激に遠のいていく。
「信じてたのに……!」
嗚咽混じりの叫びが個室に谺する。
「会ってくれるって言ったじゃない!」
──そうか。あの時の約束も「嘘」だったのか。
柚希が語っていたのは連絡の不通に対する裏切りだったのだ。
ホームレス生活を理由に音信不通を選択した自分を彼女はどれだけ傷つけていたのだろう。
「ごめん……本当に……」
絞り出した謝罪の言葉は遮られる。
「じゃあなんで……!」
柚希が自分の身体を掻き抱くように震えた。露出した胸元とスカートの乱れが現実を突きつける。
「あの日からずっと……考えないようにしてた」
囁くような声量で柚希が続けた。
「また会えるかもって……ずっと……待ってた」
──期待していたのか。
姪っ子が叔父の音信不通を恋愛感情の欠如と勘違いした可能性。
それどころか性加害者になる寸前の男に微かな恋慕を抱いていたかもしれない……その事実にヨシオの胸が千切れそうになる。
「お願いだから……帰ってきて……」
涙に濡れた瞳が哀願した刹那──
(ああ)
何かが完全に崩壊した。
急速に萎み尻餅をついた体勢で天井を見上げることしか出来ない。
反論する体力も無ければ弁解する舌もない。




