真名と葛藤(続き)
結局聖花を見失ってしまった。
ヨシオがベンチに座り込むと柚希が缶コーヒーを差し出す。
「ありがとう」
受け取った瞬間—手の甲に触れた指先が痺れたように感じた。
子供の頃によく握っていたあの小さな手とは違う。
柚希がしゃがんで紙コップに水を入れようとした瞬間—
白い学校指定ブラウスの胸の隙間から淡い色の下着が覗いた。透けて見えるレース模様。そして……
思春期特有の控えめな膨らみを包むシンプルなデザイン。
花音や紗月のような大人の女性が身につける高級品とは異なる安っぽい素材感。
「おじさん?どうしたの?」
怪訝な声で我に返る。視線が固まっていたことに気づかれてしまったか。
「いや……なんでもない」
慌てて目を逸らすが網膜にはっきり焼き付いている。
あの日豪邸で見た豊満な乳房とは対照的な幼さ。それでも確かに女性として育ちつつある証拠—
「そんなに見ないでよ……恥ずかしいじゃん」
照れ隠しにそっぽを向く仕草に胸が締め付けられる。(俺は何をしてるんだ)
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コーヒーを啜りながら考える。
林 聖花という名の少女が自分に親切にする理由。
「あの子……何か悩みでもあるんじゃないか?」
思い切って口にした推測に柚希が大きく頷いた。
「それってもしかして……」
スマホを取り出して画面を操作する指先が微かに震えている。
緊張か期待か—その微妙な挙動にヨシオは目を奪われた。
制服の裾から覗く細い足首、日に焼けた手首。
すべてが以前より成熟していてそれでいて儚い。
「このSNSの投稿見て」
差し出された画面には『#リストラ希望』のハッシュタグと共にアップされた写真。
背景は見覚えのあるパン屋の厨房だった。
「林ベーカリー……親戚が経営難で……」
説明する柚希の声が遠くなる。
目の前で揺れる黒髪から漂う甘い香りに意識が集中していく。
子供の頃使っていたシャンプーとは明らかに異なる—どこか洋菓子のような甘美な匂い。
バニラエッセンスに似た濃厚なフェロモンと……運動部らしい健康的な汗の酸っぱい匂いが混ざり合う。
工場の油汚れとは質の異なる「少女の匂い」だ。
(まずい……まただ)
先日の花音との接触以来抑え込んでいたはずの獣性が鎌首をもたげる。
視界が狭まり喉仏が激しく上下する感覚。
貧血時の眩暈とは明らかに違う性的昂ぶりが下腹部を中心に放射状に広がっていく。
「……それでね?おじさん?」
反応の鈍い叔父を訝しみ顔を上げる柚希。
潤んだ双眸と薄桃色の唇—かつては無垢な天使だった少女の肢体が異様な引力を放っている。
「ごめん……ちょっと眩暈が……」
「気分がすぐれないんだ、そこの公衆トイレの個室まで連れてってくれないか」
「え、大変ちょっと待ってね」
と柚希は言いヨシオを公衆トイレの多目的用途の個室まで連れて行く。
薄暗い個室のトイレに入るとヨシオは思案した、さてここからどうする?
欲望と理性がせめぎ合うが
ムラムラとした大波がヨシオの理性を消し去る。
「あぁ、また目眩がする……」
咄嗟の嘘で誤魔化そうとした瞬間—
(今だ)
ヨシオの右手が磁力に引き寄せられたように動いた。
ベンチに座る柚希の背後から抱きしめるような体勢で左肩を掴む。
「えっ……!?」
驚愕の声をあげる少女の首筋に顔を埋める。
人工的な香水ではなく天然のバニラ香と汗臭がダイレクトに鼻腔を襲う。
制服越しに伝わる華奢な骨格と柔肌の弾力。紛れもなく「女」として開花しつつある肉体—
禁断の果実を食らう蛇のような陶酔感に支配される。
左手は既に制服のスカートのプリーツを弄るように滑らせ臀部に触れそうになっている。
「叔父さん……?なにしてるの……?」
震える声には非難よりも怯えの方が大きい。
十年前に姉夫婦から預けられた頃の幼い面影がフラッシュバックする。
あの無邪気に「おじちゃ〜ん」と呼んでいた子が今は自分の腕の中で可憐な花蕾を露わにしようとしている。
(この子を汚してしまう……)
良心の呵責が湧き上がるが同時に別の衝動が全身を貫く。
四十年以上抑圧されてきた「男」の本能が堰を切ったように溢れ出す。




