再会のパン②
「ちょっ……君!?」
慌てふためくヨシオの袖口を少女はしっかりと掴んでいる。
通行人の好奇の視線がさらに痛くなってきた。
「早くこっち!」
少女が引っ張るように歩き出す方向は駅から少し外れた遊歩道だった。
木立が疎らに茂る芝生エリアには朝練帰りの高校生くらいしかいない。
人目が少ない場所を選んだ巧妙さに驚かされる。
「いい場所でしょ?」
少女が笑顔で見せてくれたベンチには埃ひとつない。清掃業者の管理区域なのだろう。
「はい、どうぞ」
手渡された紙袋の中にはバタールが一本丸ごと収まっている。
小麦の香ばしさが鼻腔を刺激し唾液が溢れ出た。
「これは……すごい」
驚きを隠せないヨシオの声に少女の目が嬉しそうに輝く。
「うちの家はベーカリー屋さんなの。私も毎朝手伝ってるんだ」
指先にパン屑をつけたまま誇らしげに語る姿は家庭的な温もりに満ちていた。
一口齧ると酵母の酸味と新鮮なバターの風味が口中に広がる。
路上生活で食べたどんな食べ物よりも豊かな味わいだった。
「うまい……」
思わず漏れた感嘆の声に少女が頬を紅潮させる。
「よかった!」
屈託なく喜ぶ少女の姿を見てヨシオの胸に痛みが走る。(この子も……何か問題を抱えているんじゃないのか?)
昨夜感じた危うさが再び頭をもたげる。
「あのさ……」
問いかけようとした瞬間—
「失礼ですが」
背後から低い声がかかった。
振り返れば駅前ビル警備主任の名札をつけた中年男性が厳しい眼光を向けている。




