再会のパン
冷たい朝霧が街を包む中—ヨシオは駅前の商業ビル陰に身を隠していた。
コンクリート壁が背中に冷気を伝えてくる。
「くそ……やっぱり臭うな」
自らの腋臭に顔をしかめる。
七日間洗濯していない衣服からは硫黄臭にも似た腐敗臭が漂っていた。
昨夜出会った少女が再び現れるか確認するために張り込んだものの—その清潔な存在とはあまりにかけ離れた身なりだ。
(どうか見られませんように……)
祈るように目を閉じたその時だった。
「おじさん……なんで隠れてるの?」
声の主は昨夜の少女だった。
栗色の髪を三つ編みに結いセーラー服のスカーフが風に揺れている。
行き交うスーツ姿の人々が不審な視線を投げかける。
駅へ向かう会社員集団の中年男性たちが「浮浪者?」と囁くのが聞こえる。
「す、すまない……」
慌てて立ち去ろうとした刹那—
「待って!」
少女の手がヨシオの汚れた袖を掴む。
その感触があまりにも柔らかくて思わず息を呑んだ。
「おなか空いてるでしょ?今日は今朝焼いたパンを持ってきたんだ。一緒に食べよう?」
リュックから取り出された紙袋からバターと小麦の香りが漂う。
職場に向かう人々が振り返る中—
(まずい!こんな場所で……)
周囲の敵意を感じて思わず身構えるヨシオだったが少女の笑顔には一片の曇りもない。




