夕食戦線
駅の雑踏へ紛れて降りしきる雨の中で得た500円硬貨を握りしめ、ヨシオはスーパーへ足を向ける。
普段なら270円のカット野菜サラダに目が行くところだが今日の目標は違う。
*デラックスのり弁当*
税抜き498円—
半額なら249円。
ノーマル版との差異は明白だ。通常版が海苔弁と鮭ほぐしに小鉢程度であるのに対しデラックス版は……
「ハンバーグにナポリタンスパゲティまで入ってる」
思わず呟く言葉に唾が湧く。
カロリー計算不要の暴力的なボリューム—路上生活者にとって最高級レストランの一品と同等以上の価値がある。
しかも今日限定で「半熟卵」サービス付きとのことだ。
「19時30分……」
スマートフォンがないので時計台を見上げる
。秒針が刻む音が雨音より大きく聞こえる。
スーパー「サニーズ」入口に到着する頃にはすでに列形成が始まっており—
「おーいそこ並んどらんかー!」
店員がテープで区画線を引いている最中だ。
ヨシオの後ろに次々と列が伸びていく。
若者のグループから主婦まで老若男女が雨合羽をまとっている。
彼らにとっても「半額戦争」は生き延びるための闘争なのだ。
「毎度ありませーん」
店員の気の抜けた宣告と共に戦闘開始。
棚から商品が雪崩のように運ばれてくる。
ヨシオの眼前で「デラックスのり弁当」の札が上がり—
「ぎゃっ!?」
横入りしてきた中年男性の肘鉄が胸部に直撃。
息が詰まる痛みの中でも指は標的に伸び……掴んだ! ラスト一個確保完了だ!
「畜生また負けたー!」
後方で響く絶望の叫び声。
勝者は静かにレジへ進むのみ。
249円プラス消費税3%の256円支払い完了。
「ありがとーございましたー」
店員の棒読みに頭を下げ店外へ。
雨粒で霞む視界の中を必死に歩く。
ビニール袋が上下左右に揺れ弁当内部の食材が踊る感触—この勝利の舞を楽しむ余裕はない。
他の敗残兵たちの怨念が背後から迫るようだ。
橋の下に到着する頃にはすっかり暗くなっていた。
ポケットからライターを取り出し焚火を灯す。
プラスチック容器を開けば湯気とともに牛肉の脂とケチャップの匂いが立ち上る。
「いただきます」
声は雨音にかき消された。
まずは卵黄を箸で割る。とろりと溢れる琥珀色の液体がご飯の山を黄金色に染めていく。




