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雨の慈悲
ザァザァと降り続く雨音が世界を灰色に染めている。
傘もなく濡れネズミ状態のヨシオは駅前の雑踏に佇んでいた。
アスファルトを叩く水滴が飛沫を上げ—そこに立つ男は文字通り水溜りの一部となっていた。
「あの……すいません……」
震える声で通りかかる女性に声をかける。
黒い鞄を肩に掛けたキャリアウーマンが怪訝な表情で立ち止まった。
「え?」
「ちょっと……駅までの……交通費を……」
言葉尻が雨音に溶けていく。
女性は一瞬迷った素振りを見せたが、結局無言で通り過ぎていった。
背中に向けた視線が
「関わらないでおこう」
というメッセージを明確に伝えている。
その後29人に声をかけるが反応は似たり寄ったりだった。
無視する者、軽蔑の眼差しを向ける者、
露骨に距離を取る者—様々な反応はあるものの同情票は皆無だ。
30人目の中年サラリーマンが現れたのは午後3時過ぎのこと。
ビジネススーツ姿の初老男性が改札に向かう通路でヨシオと遭遇した。
「あの……電車代を……」
言い終わる前に男性が無言で財布を取り出す。
硬貨一枚—500円玉が手のひらに置かれた。
「ありがとうございます!」
土下座のような勢いで頭を下げるヨシオに対して男性は何も言わずに立ち去った。




