喪失の味②
公園のベンチに腰掛けると封筒型カップが膝上で熱を放つ。
蒸気とともに立ち上る化学調味料の香りに胃袋が疼く。
「すみません、そのお湯もらってもいいですか?」
突然声をかけられて仰天した。
同じく路上生活者と思われる初老の男性が乞うてくる。
咄嗟に拒否する理由もなく紙コップを手渡す。
受け取った老人は感謝の言葉もなく慌てて去っていった。
(なぜ拒まなかったのだろう)
自分でも不思議だった。
貴重な食糧資源なのに—かつて工場で先輩に分け与えた記憶が蘇る。
劣等感と虚栄心がない交ぜになった感情が胸を締め付けた。
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夕暮れ時。
河原で拾い集めたアルミ缶を古物商へ売りに行く途中—
「おいそこの爺さん!」
若者の大声が耳を劈く。
見れば大学生風の集団がサッカー練習を終えてこちらを見る。
「臭うんですけどー」
「こっち来んなよゴミ人間」
罵詈雑言の雨に晒され思わず身を縮める。
ホームレス狩りと呼ばれる嫌がらせ行為は日常茶飯事だ。
「花音さん……」
無意識に呟いていた。
豪邸での一夜がまるで夢物語のように遠く感じる。
彼女の柔らかな肢体と温もり—それすらも社会的階層を超えた接触事故に過ぎないと自嘲する自分がいた。
(済まない……君は僕みたいな人間と関わるべきじゃない)
夜風に乗せて呟いた謝罪の言葉は川面に吸い込まれて消えた。




