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喪失の味
自動ドアが開くたびに漂う芳香剤の匂い。
ヨシオの鼻腔が過敏に反応した。
店内には制服姿の女子高生グループが最新ファッション雑誌を囲み黄色い声を上げている。
サラリーマン風の男が新聞コーナーで真剣な表情で株価欄を読み込み、OLと思しき女性がビジネスバッグに缶コーヒーを入れている。
「お湯をお願いします」
震える声で告げる。
カウンター越しの若い女性店員が一瞬困惑した表情を見せた。
湯沸かし器から紙コップに湯を注いでもらい感謝の言葉を述べようとするが喉が詰まって声にならない。
「どうぞ」
投げやりな口調で手渡される温かい容器。
外に出て百均で購入したカップ麺を丁寧に破り湯を注いで蓋をする。
わずか100円の昼食だが路上生活者にとっては貴重な栄養源だ。
「うわっ、汚ったないひとがいるぞ」
背後から聞こえた子供の声。
振り返らずともわかる視線の冷たさ。
うす汚れたTシャツにシワだらけの短パン姿—誰が見ても「浮浪者」と判断するだろう。
自宅マンションでの暮らしを懐かしむ余裕もなく橋の下へ歩を進める。




