評定の刻
「……しかし」
リィファの提案を遮るヨシオの声は鉄塊のように重い。
「これ以上伯爵家にご迷惑はかけられません」
毅然とした拒絶が広間に谺した。
工場で不良品処理を命じられた時の決断力を思い起こさせる断固たる態度だ。
「私は元々浮浪者です。ここに居るべき人間ではありません」
その時、花音の叫びが広大なダイニングホールに響いた。
「私……あなたとだけは離れたくないです!」
嗚咽交じりの泣き声が大理石床に反響する。
ヨシオに処女を捧げた乙女と同じ人物とは信じ難い崩れ方に周囲の空気が凍りつく。
「花音さん……」
宥める声に込められた悲壮感—ヨシオは己の選択が少女の人生に及ぼす影響を痛感していた。
しかし決定は覆らない。
「私にはもう……場違いなんだ」
言い切って扉に向かう背中にすがりつく細腕。
「お願い!ひとりにしないで!」
泣き叫ぶ声が廊下にまで轟いた。
それは伯爵家で初めて生まれた本当の叫びだった。
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重い扉が閉ざされる。
ヨシオは無言で玄関ホールへ向かう。
大理石の床に映る自分の影が妙に伸びる。
(済まない……花音)
心の中で詫びつつ—ポケットのパンが熱を持っているのを感じた。
それは伯爵家からの唯一の贈り物であり恥ずべき略奪行為でもあった。
(俺はやっぱり……ホームレスだ)
橋の下で齧るクロワッサンの味を想像すると奇妙な安心感が湧いてきた。
格差社会における敗北者が辿るべき道がそこにある―――
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