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蕾の襲来
黎明の微光が天井の装飾を金色に染め上げる頃、ヨシオの意識が浮上した。
昨夜のワインと湯船の余韻が体を重くしている。
ふと気配を感じ隣を見ると—
「……花音?」
豪奢なシルクケットを胸元まで引っ張った少女の横顔が朝靄のように漂っている。
長い睫毛が微かに動くたびに上質な香水の芳香が鼻腔をくすぐった。
完璧に計算された寝息を立てながら花音はうつ伏せの姿勢で枕を抱え込んでいる。
「どういうことだ……」
ヨシオが身じろぐとシーツが鳴った。
昨夜は確か一人で就寝したはずだ。廊下には執事が常に控えているはずだし……
「起きていますよ?」
澄んだ声が突然鼓膜を震わせた。
花音が瞼を開けると深紅の瞳がこちらを見据えている。その表情には眠気の兆候が全く無い。
「いつからここに?」
「二時間ほど前からでしょうか」
彼女は髪を耳に掛ける仕草一つにも品格がある。
「深夜番の使用人に頼んで鍵を開けてもらいました」
ヨシオの背中に冷たい汗が走る。
「法律違反だぞ」
「滞在中の特別措置ですわ」
花音の笑みが深まる。
「ご主人様が婚約者を伴わない訪問を許可したこと自体が非公式なのです」
彼女の指がヨシオの袖口を摘む。昨夜リィファの血痕があった場所だ。
「それで……」




