疑惑の眼差し
一方のリィファは自室へ続く回廊を進んでいた。
石畳に点在する蝋燭の橙色が彼女の白い肌を染め上げる。
―突然の寒気が走り腰を抑える。
(痛みよりも疼きの方が強いなんて……)
ローブの裾が揺れるたびに微弱な電流が走る。これまで読んでいた医学書では説明できない感覚だった。
生理学的反応と精神的作用が絡み合い、思考が混乱する。
「おや」
柱の陰から響いた声に全身が硬直した。紫水晶色のドレスが闇から滲み出すように現れる。
「ずいぶんと長風呂だったわね、リィファ」
ルシアの扇子が優雅に翻る。
その動作一つ一つが演劇の舞台装置のように計算されていた。
「あれだけ蔑んでいた庶民と……」
「誤解ですわ」
リィファの返答は即座だったが声が上擦っている。
「謝罪のために同行しただけで」
「ほう?」
ルシアの瞳孔が縮小する。
夜行性動物を思わせる敏捷さで彼女が一歩近づいた。
「ではそのローブについている赤茶色の斑点は何でしょう?」
冷たい指先がリィファの袖口を摘む。
僅かに湿った血痕がランプの光で鈍く輝いた。
「出血部位はどこかしら」
「擦り傷です」
「右手中指の第二関節?」
リィファの瞳孔が揺れる。
確かにそこには小さな切り傷があった。しかし……
「それとも……」
ルシアの扇子がリィファの腹部へ向けられる。




