想定外の告白
浴場の湯気が二人を包んでいた。
大理石の噴水が静かに水を注ぐ音だけが響く。
「……冗談か?」
ヨシオは低く呟いた。しかしリィファの長い睫毛は微動だにしない。
「冗談ではありません」
彼女の声は水面を揺らす波紋のようにかすかに震えていた。
「ローゼンタール家を代表する者として……適切な対価を支払わねばならないと考えております」
ヨシオは大きく息を吐いた。
「お前さんの言う『適切』ってのは一体……」
「この家の女として……与えられた任務を果たすこと」
沈黙が流れた。湯船の縁で指を絡ませる彼女の姿は儚げで美しい。
「バカなことを言うな」
ヨシオがゆっくりと湯から立ち上がった。
「お前はまだ若い」
「若いかどうかなんて関係ないですわ」
リィファの声は湯気のように揺れた。湯面から立ち上る蒸気でその輪郭が霞んでいる。
「そうか……」
ヨシオは視線を彷徨わせた。
リィファの均整の取れた肢体―ルシアのような豊満さはないが鍛錬されたしなやかさがある―が湯気越しに朧げに見える。
「でも……」
彼女の足先が僅かに動いた。
大理石の縁に触れていた爪先が微かに震えている。
「恐れられています?」
ヨシオは言葉を選んだ。
「恐れてはいない。ただ……」
「ただ?」
「お前の覚悟が本当に正しいのか考えている」
「正しいも何もありません」
リィファが小さく首を振る。「これは義務ですから」
ヨシオは近づきすぎぬ距離で膝をついた。
互いの呼吸が湯気に溶けていく。
「そんな義務があるものか」
「この家では……あります」
突然彼女の声がかすれた。
「昨日も言ったでしょう?嘘つきは信用できないと」
「そうだったな」
「だから今日は本当のことを教えてほしいのです」
「何を?」
「なぜあなたは……こんな境遇に?」




