貴族の嗜み
客室に入るとヨシオは息を飲んだ。
そこはかつて訪れた博物館の応接間以上に豪華だった。
「どうぞお座りになって」
ルシアが優雅に椅子を勧める。
漆塩入りのベージュ大理石壁に飾られた黄金枠絵画が、窓から差し込む陽光に煌めく。
「……」
ヨシオは無意識に背筋を伸ばした。
テーブルクロスは白絹で縁に精緻な刺繍が施され、中央には薔薇模様の花瓶が鎮座している。
「こちらが今シーズン特別注文した紅茶です」
メイドが注ぐ琥珀色の液体が陶磁器の中で揺れた。
ヨシオの目の前に置かれたのはヴィクトリア王朝期の古美術品——金彩で縁取られたカップ&ソーサーだった。
「これを……私が?」
「ええ」ルシアが微笑む。「英国王室御用達ブランドの19世紀復刻版なの」
花音がそっと手を添えた。「お気になさらず召し上がってくださいね」
リィファだけが無言で紅茶を啜っていた。
彼女の前にあるのは同デザインのカップだが装飾が一段控えめな品だ。
「では乾杯といきましょうか」
ルシアが軽くカップを持ち上げる。「ご多忙中の皆様へ……と」
「……ありがとう」
ヨシオは慎重に口をつける。
舌先に広がるベルガモット香は芳醇だったが、緊張で味わうどころではない。
「ところで」
ルシアがケーキスタンドへ視線を移す。
「今日は特別にシェフ特製のタルトをご用意いたしましたの」
三段重ねのスイーツ塔には宝石箱のように色彩豊かな菓子が並んでいる。
苺ショート、アプリコットパイ、栗のモンブラン——それぞれ芸術作品並みの細工だ。
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