貴族邸宅への招待
「着きましたわ」
花音の声が車内に響く。
タクシーが停止したのは巨大な壁の前だった。
石積みの城砦のごとき防壁が左右へ果てしなく伸びている。高さは軽く四メートルを越えようか。
「……これが?」
「ええ私の家です」
「冗談だろ」
ヨシオの声がかすれる。生まれて初めて見る防犯設備の域を超えた防護壁だった。
「そんな顔しないでくださいませ」花音がクスクス笑う。「ただの壁ですよ」
「ただの壁……ね」
その壁には豪奢な装飾が施され、頂部には有刺鉄線に加えて恐らく赤外線センサーも設置されているらしい。近寄っただけで全身鳥肌が立つほどの威圧感だ。
「こっちですわ」
タクシーを降りた花音が躊躇なく歩いていく。その後を慌てて追うヨシオの目に飛び込んできたのは──
**ゴォオン**
鋼鉄製の巨大な両開き門扉が重々しく唸りを上げて開放される光景だった。
「何だコレは……」
「セキュリティロックです」
平然と答える花音。「指紋・虹彩・静脈認証を同時確認しています」
門の中へ入るとヨシオは言葉を失った。手入れの行き届いた庭園が幾重にも折り重なる。両脇に並ぶ椿の生け垣は整然と刈り込まれており、その向こうには噴水のある池が見える。
「どれだけ広いんだ……」
「全部で五万坪ほどですわね」
さらりと言われ首を傾げる。「日本全国の一般家庭三〇〇軒分くらいでしょうか」
「三〇〇軒分だと?」
目の眩むような数字に目眩すら覚える。「この道……どこまで続いてる?」
「四百メートルくらいです」
先を行く花音の足取りは軽やかだった。
一方ヨシオは重たい荷物を持ったまま砂浜を歩くような気分になっている。ビーグル犬「ヨシオくん」だけが楽しそうに跳ね回りながら付いてきた。
「あれが母屋です」
ようやく見えてきた建物は古典ヨーロピアンスタイルの二階建て館であった。
正面玄関前に立つと大理石の大階段が広がり豪壮な石柱が支えるバルコニーが宙に浮いているかのように見える。
「こんな所に俺を入れていいのか?」
「もちろんですわ」花音が振り返り笑顔を見せる。
「我が家では客人をお迎えする際必ず館内でゆっくりとくつろいでもらうことになっていますの」
「客人扱いかよ……」
「不服ですか?」
「いや嬉しいんだが」ヨシオは正直に答える。「あまりにも不釣り合いで落ち着かないだけさ」
「慣れれば大丈夫です」
扉が開くとメイド服姿の女性たちが恭しく頭を下げてきた。
「おかえりなさいませお嬢様」「ご家族一同お待ちしておりました」
「ちょっと待て」
ヨシオは狼狽する。「家族って……まさか全員集まってんのか?」
「ええ先ほど連絡したら皆さん楽しみにされていますもの」
「楽しみにって何が?」
「それは本人達から聞いてくださいな♪」




