混沌の公園
花音が差し出した写真を凝視する。
そこには確かに犬がいた。
茶色い毛並みに垂れ耳──可愛らしいビーグル犬。
「これが……どうした」
「名前がありますの」
少女の口元が歪む。
「ヨシオくん、と申します」
(馬鹿な……)
心臓が跳ねる。偶然にしては出来すぎている。しかも名前は……
「なぜ俺と同じ名前だ?」
疑問が頭の中を支配するヨシオ。
偶然にしては出来すぎている。
「それは」
花音が艶やかに笑う。
「単なる偶然ですわ」
(そんな馬鹿な……)
脳裏で否定しようとするも証拠は何もない。ただ名前の一致だけだ。
「それで?この犬が何だって?」
「大事なことは」
少女は写真を指差す。
「このワンちゃんが毎朝あなたを見張っていることです」
「は?」
ヨシオの声が裏返る。見張り?犬が?
「どういう意味だ」
「ご覧になります?」
花音はスマホを操作し映像を再生する。そこには早朝の河川敷を徘徊するビーグル犬の姿。そして橋桁の方向を見つめている。
(まさか俺の住居を?)
「待て」
混乱するヨシオ。「こいつの主人は誰だ?」
「それは……」
花音の目が狡猾に輝く。
「教えても構いませんが条件がありますわ」
「言ってみろ」
「柚希さんのこと教えてください」
「断る」
即答したものの内心は揺れていた。
「そんなに大切な方ですの?」
挑発するような口調。
「彼女があなたのような貧乏人を選ぶ理由がわかりませんけど」
「お前に何がわかる」
言い捨てようとした瞬間──
「わん!」
突然背後から声がする。振り返ると茶色い犬が尻尾を振っていた。
「あらヨシオくん」
花音が嬉々として抱き上げる。「探検お疲れ様」
「おい……」
まさか本物の「ヨシオくん」か。
狼狽する彼に追い討ちをかける言葉が投げられた。
「ちなみに」
犬を撫でながら花音が続ける。
「この子の餌には特別な仕掛けをしてまして」
「仕掛け?」
「あなたの匂いですわ」
「俺の……?」
「正確にはあなたの使ったタオルですけど」




