前へ目次 次へ 110/230 【接近の罠】 駅舎が見えてきた。 雨足は依然強いままだ。 「ここでいいよ」 柚希が申し出る。 「わざわざ送ってくれなくても……」 「ここまで来て途中で帰れるかよ」 ヨシオは譲らなかった。 「着いたな」 改札前のロータリー。 人々が傘を広げて忙しなく行き交う中二人だけが別世界にいるかのような錯覚。 「ヨシオさん」 呼び方が変わったことに心臓が跳ねる。 「なんだ?」 「まだ……話せる?」 彼女の声に切なさが滲む。 「このまま終わらせたくないから……」