02-05.悪辣な刺客
「あ! ステラさん!」
「はぁい♪ サラ♪ お仕事はあるかしら♪」
「あるに決まってるじゃないですかぁ! ずっと待ってたんですよぉ!」
「ふふ♪ 大げさね♪」
「ささ! どうぞこちらへ!」
奥に? ギルド長案件かしら?
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「おお。来たか」
「あまり芳しくないようね」
「なんだ聞いてねえのか。どこの田舎にバカンスいってやがったんだ?」
「王都よ」
「はっ。そんなら無理ねえな♪ 最先端はとっくにこっちに移ってんだからよ♪ まったく領主様々だぜ♪」
「あら。意外と余裕があるのね」
「おめえが来たからな。竜退治なんてお手のもんだろ」
「竜が? どこから?」
「未開拓領域の先だ。奴さん、向こう側から流れ着いてきたみたいでな」
珍しいわね。未開拓領域は竜種だって簡単には越えられない土地なのに。
「どうして向こうからだと?」
まだ向こうのギルドの情報は伝わっていない筈よね。
「有名人だからさ」
「もしかしてあの子なの?」
「隣国の守護竜だ。なんだ知り合いなのか? それはマズいな……」
それって……。
「黒化してやがる。討伐するしかねぇ」
「……そう」
「やってくれるか?」
「ええ。任せて」
「すまねえな」
「ううん。あの子は今どこに?」
「未開拓領域の端っこだ」
マズいわね。あの森が完全に汚染されれば手に負えないわ。あの子は利用されたのね。私たちが警戒していたから。組織の連中はアミの行動を把握していたんだわ。
「ごめんなさい。これは私たちの落ち度よ」
「気にしすぎだ」
「行ってくるわ。証拠は持ち帰れないけれど」
「わかってる。お前を疑うわけねえだろ」
「ありがとう」
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すぐにギルドを立ち、竜の目撃情報があった場所までやってきた。
「ガルディオン!!」
「……」
本当に真っ黒だ。美しかった金色の鱗は見る影もない。彼女の周囲の木々も腐り落ちている。どこかに怪我をしているのかその場から動く様子がない。ただ僅かに視線を上げて私を認識しただけだった。
「ガルディオン!」
『触れるな』
「っ!?」
まだ意識があるのね! 狂気に飲まれていないのね!
『我を討て』
え……。
『頼む。友よ』
「だって! あなたはまだ!!」
『頼む』
「そんなこと!!」
出来るはずないじゃない……。
「ギャァォオオオオオ!!!」
「っ!?」
急な咆哮に反応しきれず吹き飛ばされた。ガルディオンは翼を広げ、覆いかぶさるように襲いかかってきた。
「くっ!」
その場から転がるように抜け出し、飛行魔術で空へと飛び上がる。
『撃て! 友よ!!』
ガルディオンの苦しげな訴えが聞こえてくる。彼女は待っていたのだ。自身を討ち滅ぼせる唯一の存在を。
……やるしかない。汚染されたものは森であろうと魔物であろうと決して取り戻せはしない。彼女が意識を保っていることは奇跡だ。彼女の高潔な精神が狂気に飲まれることを良しとしなかったのだ。そんな彼女であっても既に限界だ。彼女は完全に飲まれる前に終わらせたかったのだ。他ならぬ私の手で。これは懇願だ。これは願いだ。これは慈悲だ。
覚悟を決めろ。これは私にしか出来ないことだ。彼女の信頼を裏切るわけにはいかない。彼女は救いを求めてやってきた。他者を傷つけぬよう息を潜めて待っていた。そして苦しみから解放する手段はたったの一つだけだ。
「ガルディオン」
『……すまぬ』
「ううん。ごめんね。巻き込んで」
『油断したのだ。我が』
「後は任せて」
『うむ。頼んだぞ』
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『ステラ!? 何事だい!?』
火柱を目撃したのだろう。フィリーにアミの意識が宿り、ひとりでに動き出した。
「丁度良かったわ。早速だけど大仕事よ。汚染箇所を特定してくれるかしら」
『まさか!? 未開拓領域全域が!?』
「いいえ。まだそこまでは広がっていない筈よ」
『っ!? ステラ!? 泣いてるの!?』
「後で話すわ」
『っ! わかった! 任せて!』
アミの探知魔術で場所を特定してもらい、汚染された箇所を焼いていく。やはり範囲はそう広くなかった。彼女が抑え込んでくれていたお陰だろう。
彼女、黄金竜ガルディオンは、未開拓領域を挟んだ隣国、ガルディアス竜王国の象徴たる守護竜だ。
彼女はその力で未開拓領域から迫りくる魔物たちを打ち払い続けてきた。人々は彼女に感謝し、彼女の名を冠した国を作り上げた。
今日に至るまで彼女と人々は共に手を取り合い、この過酷な世界を生き抜いてきた。竜王国の人々にとって彼女は神様も同然の存在だ。彼女を喪った悲しみは計り知れないものだろう。今頃捜索を続けている筈だ。きっと彼女は何も言わずに飛び去ったのだろうから。
私は伝えに行かねばならない。彼女の遺したものを届けなくては。
『この骨は……』
「流石ね。私でも焼ききれないなんて」
『……後は任せて。弔ってあげて』
「ええ」
土魔術で作り上げた巨大な壺に余さず骨を収め、未開拓領域を越えて隣国へと向かった。




