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華麗なる闇堕ちラスボスを全うしたい夜神くん  作者: 霞花怜(Ray)


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70. カロン神木の妄想的苦悩【KK】【両片思い三角関係エンド①】

 女神アメリアの導きで、カロンたちは地上に戻った。

 アメリアの天啓通り、教会には智天使プシュケの神託が降りていた。世界の終焉を食い止めた英雄として『神実』と『魔実』、『五感の護り』の功績が伝えられていた。


 この度の功績として、カロンには男爵位が与えられ、晴れて貴族の仲間入りを果たした。

 謀反の疑いで取り潰しを検討されていたヴァンベルム家は一転、王室より褒章を賜った。

 冥界という場所が魂を洗う場所であり、魔王は神と同義の管理者である事実が伝えられたことから、リリムの魔王という立場も名誉職として保持された。

『五感の護り』にもそれぞれ、王直々に褒章が下賜された。


 数十年ぶりに現れた『神実』と数百年ぶりに現れた『魔実』、五人揃った守護者『五感の護り』は教会が保護する存在となり、国の宝と位置付けられた。


 カロンたちは今後もレーヴァティン魔法学院で研鑽を詰み、国に貢献することを約束して、いつもの日常に戻った。


「女神様の前でむやみに話しちゃダメだなんて、知らなかったね」

「僕も知らなかった。初めて話した時は竜の中だったし、アンドラスもいたから、気にもしなかったな」


 冥界で女神アメリアと話した後、軽くレアンに説教された。

 女神様や天使様の神託を受ける場合、代表者が言葉を受け取り、返事を発する。

 姿を直に見ないよう平伏するのが、しきたりなんだそうだ。


「リリムは闇魔術師で教会には行かないし、カロンは貴族じゃないから儀式的な教会の作法には無縁だろうから、仕方がない」


 リリムの言う通り、神界や教会に無縁の二人だ。

 知らなかったとはいえ、ガンガン話してしまった。

 言われてみればあの時は、カロンとリリム以外ではレアンしか話していなかった。


「アメリア様、緩そうだから、そういうの気にしなそうだけどなぁ」


 アメリア自身はよく言えば、おおらかな神様だ。

 抱き合っていたカロンとリリムに、そのままでいいと指示したのもアメリアだ。


「緩いか? 一見して緩そうだが、あの後の話は緩くなかった」

「あの後って、シードの話か。確かに、緩くなかったね」


 地上に戻る直前、女神アメリアが告げた神託は、


『カロンとリリムは『神実』と『魔実』としてシードを選ぶこと。自分の半身となる生涯を共に生きる相手を一人、選ぶのです』


 物語の設定なら、その通りだ。

『五感の護り』は守護者の役割に留まらない。特別な果実を熟れさせるための種でもある。


シードを選ぶなんて、考えてもいなかった」


 リリムが、ぽそりと零した。

『魔実』は小説にない設定だから、自分が『神実』と同じ扱になる現状に、いまだ慣れないようだ。


(アメリア様って、緩そうにしてるけど抜け目ない女神様なのかな)


 皆と話した後に、アメリアはこっそりとカロンにだけ耳打ちした。


シードは『五感の護り』の中から選ばれるのが通例です。前例を作りたければ、頑張るしかありませんよ』


 そう話したアメリアは、とびきり良い笑顔だった。


(あれって、俺とリリムを見て言った言葉だと思うけど。楽しそうだったな、アメリア様。何つーか、同じ匂いを感じた)


 アメリアは腐女子かもしれない。

 そんな発想が脳裏をかすめる程度には、楽しそうな笑顔だった。

 

(そもそもBL小説だからな。主人公も『五感の護り』も悪役令息も、全員が男子だ。『神実』と『五感の護り』を生み出したのは女神アメリアって設定だから、発想が腐女子で当然なんだけど)


 BLの割にがっつりファンタジーしているのが『魅惑の果実』という小説の魅力だ。だが、メインはやっぱりBLだ。

 敵を倒すという目的を共有しながら仲を深めて結ばれる。つまりはシード選びが物語のメインになる。


(終盤に入る直前、主人公カロンはレアンをシードに選んで、結ばれた。そのお陰でカロンは『神実』として熟れて神力を増やしてた。あれはラスボスを倒すために必要な展開、言ってみればカロンの装備増強だ)


 というのが、陽向の独自解釈だ。


(夢野先生があんな感じの人だと、最後までシードがレアンである保証はないよな)


 原作者に実際に会ってみて、思った。

 終盤直前で結ばれた物語の中のカロンとレアンが、最後までカップルでいる保証はない、と。


(だって夢野先生、めちゃめちゃクズ好きじゃん。クズ人間のリリムは小説の最後、敵側に取り込まれそうになってたし。もしかして、原作小説でもカロンと結ばれるのって、リリムなんじゃないの?)


 だからこそ、コミカライズ版でリリムは主人公陣営に入るのではないだろうか。

 出版社がリリムをクズから格好良いキャラに昇格させたがったのは、夢野迷路の原作の最終回で、リリムがカロンと結ばれるからじゃないだろうか。


(結ばれないまでも、敵側に取り込まれたリリムを救い出すことで、カロンとの間に友情以上の関係が生まれる。だからコミカライズ版で、カロンとリリムは協力して中ボスである大天使メロウを倒す)


 そう考えると、コミカライズ版から派生する予定のBLゲームに、リリムが攻略対象として入っても、違和感はない。


(新しい悪役令息キャラ作りますとか、夢野先生も嘆いていたし。夢野先生的にはリリムはクズキャラのままなんだろうけど、主人公陣営に入れる意向は夢野先生も出版社も同じで、リリムは原作から続くコミカライズ版では主人公の恋愛対象になり得るのでは)


 夢野迷路の話、女神アメリアの神託、原作とコミカライズ版を混ぜ合わせたような今の世界。総ての要素を含めてカロン神木が導き出した答え、それは。


(リリムは『魔実』として『五感の護り』と同じ立ち位置で主人公カロンの恋愛対象に入る。つまり、主人公がリリムをシードに選ぶ可能性もある!)


 腐男子脳が光の速さで、ここまでの可能性を推理した。


(問題はリリムも『魔実』としてシードを選ばなきゃいけない現状だ。これじゃまるで、カロンとリリムのダブル主人公状態……)


 その可能性に辿り着いて、カロンは愕然とした。


(もしかして、既にリリムが主人公になってんのかな。ここまでの流れだって充分に、リリムの活躍は主人公バリに濃い。最終的にガチ強ラスボスになってたから、気が付かなかったけど。クズ人間好きの夢野先生の小説なら、あり得る)


 隣のリリムを見詰める。

 さっきから伏し目がちに思案するリリムの顔が色っぽくてイケメンだ。思わず見惚れそうになる。

 

(やっぱ、リリム格好良い。立ち絵のリリムより、夜神くんのほうが五億倍格好良い)


 現実のリリムを目の前にして、カロンは深呼吸した。


(そうだよな。どんなに小説から生まれた世界っていっても、俺たちにとって、この世界は現実なんだから。小説の通りになんか、進むわけないんだし。何より、この世界のリリムはクズ人間じゃないし)


 これまでだって、小説とは展開がかなり外れた。

 同じなのは世界観と登場キャラの名前くらいだ。

 多少の参考にはできても、小説と同じに考えるのは危険だ。


(あんまりにも今更だな、俺。ていうか、そもそも実際のところ、リリムは俺をどう思ってんのかな)


 一番、大事なのはその部分だ。

 笑顔が好きだと、リリムはカロンに何度も伝えてくれた。

 だが、カロンが好きだとは、一度も言われていない。


(大好きなカロン、とは、言ってくれたけど。あれって笑顔の話だったし。笑顔が好きだけじゃ、友達程度の好きなのかなって思うし。それに俺だって、自分の気持ち、まだよくわからない)


 リリムを誰かにとられるのは嫌だ。

 リリムが自分以外を想うのも嫌だ。

 レアンにも、俺のリリムだと言い張った。


(けど、レアンに啖呵切る時って、いつも勢いというか。改めて考えると、これが恋なのかとか、難しい)


 元の世界にいた頃から、夜神に会えるのは嬉しかった。

 夜神と話すのは楽しかったし、共に過ごす時間を増やしたかった。


 この世界に来てからは、命懸けのシーンが多すぎて、ゆっくり考える暇もなかった。

 何より、わからないことが多すぎて、二人で手探りでここまで来た感覚だ。


(けど、この世界に来てから確実に、俺の中でリリムの存在は大きくなってる。元の世界にいた時より、ずっと大事な人だ)


 大切で、失いたくない人だ。

 だけど、これが恋なのか友情なのか、カロンにもわからなかった。


(こんな中途半端な気持ちで、リリムを俺のシードにしたいなんて、言えない)


 この世界において、『神実』が選ぶシードは重要だ。

 存在するだけで豊穣と平和をもたらす奇跡の果実『神実』と、守護者である『五感の護り』の能力を引き継ぐ、次世代の『神実』を産む。

 それこそが、『神実』に期待される役割で、その『神実』が選ぶシードもまた特別な存在だ。


 シードを選んでも『神実』の力を引き継いだ子が生まれずに果実の継承者が途絶えて消える事態もある。

 だから『神実』は数十年、数百年後に、ある日突然、降って湧いたように発見される。物語の中のカロンがまさに、突然現れた『神実』だ。


 だからこそ国は、発見した『神実』に次の『神実』を産ませようと躍起になる。王族が血族から『五感の護り』を排出しようと有能な魔術師を数多く生み出すのも、そのためだ。


(もしかして俺とリリムのシード選びって、めちゃくちゃ責任重大なんじゃねぇの? 失敗したら国家に消されるんじゃ)


 今となっては『魔実』のリリムも、カロンと同じ立ち位置だ。

 果実同士で番って、次の果実が生まれるかわからない以上、軽々しく言えない。


 カロンは頭を抱えた。


(でもじゃぁ、仮に、リリムが俺以外をシードに選んだら。たとえば、レアンとか)


 現時点でリリムに猛アプローチを仕掛けているのはレアンとシェーンだ。

 どっちも強いが、レアンの押しの強さが現時点で勝る。


(冥界で皆に気持ち良くされてる時のリリム、めっちゃメス顔してた。あんな顔で、レアンに抱かれんの?)


 カロンには、いつもガチなイケメン雄顔のリリムなのに。

 レアンやシェーンといる時は、可愛さを発揮する。

 

(あの流れで、抱かれちゃったりすんの? リリムって、リバなの? でも、シードを選ぶって、そういうことだよな。果実は種をもらう側なんだから)


 カロンの頭に、レアンに気持ち良くされて可愛くなっているリリムが浮かんだ。

 頭に流れ込んでいた血の気が一気に引いた。

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