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華麗なる闇堕ちラスボスを全うしたい夜神くん  作者: 霞花怜(Ray)


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71. リリム夜神の希望的観測【LY】【両片思い三角関係エンド②】

 カロンが隣で頭を抱えて妄想に苦悩している時。

 リリムもまた、自分の考えに耽っていた。


(僕は『魔実』だから、『神実』であるカロンと同様に、特別な果実としてシードを選ぶ。不自然な流れではないけど。小説にはない展開だから、戸惑うな)


 これまでも小説にない展開ばかりだったから、今更ではあるが。


(大天使メロウを倒してアメリア様の幽閉が解ければ、小説の展開に戻るのだと思っていた。だけど、夢野先生と話した陽向の話を聞くと、そうでもないらしい)


 小説から派生した世界ではあっても、この世界は既に独立している。

 原作の小説とコミカライズ版の展開が混ざり合って、原作の展開を追い越してまだ書かれていないはずの中ボスを、カロンとリリムは倒した。


(この世界が原作を追い越したら、どうなるのだろう)


 追い越しただけでなく、オリジナル路線を走っている。

 もう、原作の小説を参考にはできない。


(敵だった魔窟の竜も悪魔アンドラスも、僕に懐いた。原作のラスボス予定だったリリムはカロンに倒された。コミカライズ版中ボス大天使メロウは倒したけど、まだ夢野先生が書いていないラスボスが控えている)


 リリム夜神が知っている小説の展開は、終わった。

 この先の展開は、リリム夜神だけでなくカロン神木も知らない。


(また夢野先生に会える可能性は低そうだし、女神アメリア様はこの世界の神様だ。小説の展開までは把握していないだろう)


 異世界から救世主を召喚できたり、虫食いの存在を把握していても、この世界の未来の先々まで知っている訳ではなさそうだ。


 だからこそ、リリムは思った。


(つまりこの先は、何にも囚われず好きに動いていい。僕が思うリリムとして生きていいということだ)


 これまでは『魅惑の果実』がより面白くなるように、悪役令息リリムとして、陽向が喜んでくれるような闇堕ちラスボスになって倒されるのが目的だったが。

 

(これからはカロンの笑顔を隣で守るリリムになってもいい。それでいいと、カロンも納得してくれた)


 ちらりと、隣のカロンをこっそり見詰める。

 カロンが思いつめた顔で何かを思案している。


(どんな顔のカロンも、可愛い。けど、笑っているカロンが一番、可愛い。最近、カロンの顔が、陽向に見える)


 この世界のカロンは、小説の描写通りの顔をしている。 

 元の世界の神木陽向の外見とは違うのに、リリムには陽向が笑っているように見える。


(陽向を笑わせるには、どうしたらいいだろう。やはり、カロンが望むシードと添い遂げること、だろうか。だとしたら、レアンか)


 小説の中でも、カロンはレアンをシードに選んで結ばれる。

 何より、陽向の最推しは、レアンだ。

 この世界に来てからも二人でよく内緒話をしているから、仲が良いのだろう。


(メロウを倒す関係上、僕がカロンを拘束する時間が多かったけど。悪いことをしたかもな。カロンはもっと、レアンと一緒に過ごしたかったかもしれない)


 だとしたら、これからはカロンとレアンが添い遂げられるよう、二人の時間を確保する。

 リリム夜神の新たな目標が定まった。


(そうなると、僕と二人でいるのは、あまりよろしくない。レアンに変な誤解をされたら、カロンに申し訳ない。……誤解、か)


 もうカロンと二人でいられないのは、悲しい。

 レアンと二人きりでいるカロンを想像すると、胸が苦しい。


(僕は、どさくさに紛れて、何回もカロンにキスしてる。もう、しないようにしないと。カロンにもレアンにも、申し訳ない。いつも衝動的にしてしまうけど、この気持ちは、なんだろう。独占欲だろうか)


 元の世界の神木陽向を知っているのは、自分だけだ。

 そういう独占欲が、カロンを独り占めして、誰にも触れさせたくないと思わせるのかもしれない。


(本当のカロンを知っているのは、僕だけだ。陽向を笑わせられるのは、僕だけだ。そんな風に思いたい。でもそれじゃ、陽向の気持ちを無視してる。陽向の最推しはレアンなのに)


 小説の中で結ばれる者同士、陽向の最推しもレアン。

 カロンとレアンはきっと、そういう引力で惹かれ合う二人だ。

 リリムは、締まる胸に手をあてた。


(いっそ、僕だけのカロンになってくれたら。リリム最推しの陽向になってくれたら、いいのに)


 そう思って、気が付いた。


(リリムは、僕なのに。僕の中に、いつの間に、こんなに気持ちが膨らんでいたんだろう)


 気が付いたら、急に恥ずかしくなってきた。

 

(僕は、陽向に推してもらえるリリムに、なりたかったのか。リリムを陽向の最推しにしたかったのか)


 闇堕ちラスボスになって、この物語を面白くして陽向に喜んでもらいたかったのは、そのためかもしれない。

 自分でも意識していなかった。


(とはいえ、陽向の最推しがリリムになっても、小説の中でカロンがシードに選ぶのは、レアンだ)


 陽向の最推しがリリムになったら、この世界でカロンが選ぶシードも変るだろうか。


(この世界のカロンは陽向だから、陽向の気持ちが変われば、変わるのかな。それで、この世界は壊れないのか? もう充分に変わっているから、シードが変わるくらい、有り得るか。けど、シードは物語の重要設定だ。主人公が生涯を共に生きる相手なのだから、ある意味ラスボスより重要な気がする。でも……)


 リリムの脳内が、小説設定と我欲の間で混乱した。


(カロンがレアンと結ばれたら、僕以上にカロンはレアンとキスする……よな。カロンが、レアンと、キス……、シードなら、それ以上も……)


 リリムの脳内に、レアンに卑猥な行為をされるカロンが浮かんだ。


「カ、カロン……!」

「……っ、リリム!」


 勢いで名前を呼んだら、カロンもリリムの名を呼んだ。


「ぁ……、どうしたんだ?」

「いや……、リリムこそ、何か言おうとした?」


 心なしか、カロンの顔が赤い。


「リリム、顔、赤いけど、どうしたの?」


 カロンに指摘されて、リリムは自分の顔を隠した。


「別に、何も。……カロンこそ、顔が赤い。熱でも、あるのか?」

「熱とか、ないよ! 全然、何でもない!」


 カロンがすごい勢いで顔を逸らした。

 しばらく二人とも黙っていたが、カロンがぽそりと呟いた。


「リリムは、さ。もう、シードの相手、決めてるの?」

「いや、まだだ。……カロンは?」


 聞くのは、少し怖い。

 しかし、この機を逃したら、もう聞けない気がした。


「俺も、まだ」


 短く返ってきた返答に安堵した。


(どうして、安心するんだろう。いっそレアンだとはっきり言ってくれたら、僕の覚悟も決まるのに)


 そんな自分の気持ちに戸惑った。


(覚悟しないと僕は、カロンとレアンの関係を、陽向の気持ちを、応援できないのか)


 この気持ちの正体に、名前を付けるのは怖い。

 率直な自分の想いに気付いては、いけない気がした。


「カロンは、レアンを選ばないのか? 陽向の最推しは、レアンだろう?」


 カロンがリリムを振り返った。

 かなり驚いた顔をしている。不思議だ。


「違う……、いや。小説の最推しは、レアンだったけど。この世界の最推しは、レアンじゃないよ」

「え……? じゃぁ、この世界のカロンの最推しは、誰なんだ?」


 意外な返答に、思わず素直な問いを投げた。


「この世界の、推しは」


 カロンが言葉を飲んだ。


「待って、その前に、聞きたいんだけど。リリムは、いないの? この世界に来て、推し、できなかったの?」


 逆に聞かれて、考えた。


(推し、推しか。考えたことがなかったな)


 皆、それぞれに親切にしてくれる大切な仲間だ。

 けれど、隣で笑っていて欲しい人は、元の世界でも、今の世界でも、変わらない。


(きっとこの先も、変わらないんだ。僕が一番大切にしたい相手は、きっとずっと同じだ。この感情が何か、本当は気が付いているのに。自分で認めたら、もうカロンを応援できなくなる)


 そんな自分が、心底嫌だ。


「リムの推しって、誰?」


 カロンが、恐々問う。

 不安そうで泣き出しそうな顔が可愛くて、抱き寄せてキスしたくなる。


(僕はいつから、こんなに煩悩に塗れた男になったんだ。目の前のカロンが可愛い。これが、萌えという感情か? いや待て、だったら僕の推しは、カロンか?)


 自分の気持ちを探る。

 リリムの脳が機械的に感情を整理した。


「僕の推しは、カロンかもしれない。カロンが幸せになる世界が、僕の理想だ」


 陽向の期待に応えるラスボスは終了した。

 リリム夜神の次なる目標は、カロンの笑顔を守る。つまり、カロンの幸せだ。


(これはきっと、恋ではない。僕が全力で推したいのは、カロンなんだ)


 そんな風に、自分の中の感情を整理した。

 そう考えれば、カロンの恋を応援できる。


「僕のこの世界での目標は、カロンの笑顔を守ることだ。カロンが誰をシードに選んでも、応援する」


 カロンの顔が、ちょっと怒って見えた。

 怒った顔も可愛いなと思った。


「俺が誰を選んでもいいんだ。レアンやカデルを選んでも、いいんだ」

「カロンが選ぶなら、相手がレアンでもカデルでも、応援する」


 カロンの顔が、もっと怒った。

 やっぱり可愛い。


「リリムが本当は誰を好きなのかって、考えてなかった俺も悪いけど」


 カロンが俯いて、小さな声で零した。


「推しって、ただの推し? 自分で推しを幸せにしようとは、思わないの?」

「それは、僕がカロンを、という意味か?」

「そうだよ。俺がリリムを選んだら、どうするんだよ」


 カロンが勢いで圧してくる。

 こういう時のカロンは、やけになっている。陽向の頃から、同じだ。


「僕たちは果実同士だが、シードになれるのか?」


 陽向がそういうモードに入ると、本音とは別の理攻めをするのが、自分の癖だ。それもよくわかっている。


「知らないけど、無理じゃないかもしれないじゃん。俺のこの世界の最推しはリリムだよ。ただの推しなら、壁になって幸せを見守りたいけどさ。リアコは欲しいって思ったりもすんの!」

「りあこ?」


 カロンの言葉がよくわからなくて、返事に窮する。


「もう、いい。俺の気持ちが半端でも、リリムがわかってなくても、俺はリリムがす……」

「はい、そこまでだよ」


 ふわりと白い布が舞う。

 リリムとカロンの間に、レアンが立っていた。

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