そのみっつ壱/02 「 おどまりさん こともりさん 」
ミシルの部屋の空気が ほんの少し揺れ、 微かに振動した。
しかし、 その静寂は一切揺らぐ事は無かった。
二人が家を出た わずか 二分後のことであった。
ミシルの部屋は、 少し奇妙な間取りの中にある。
家全体のほぼ中央に位置してあり、 家の外部に接した壁が無い。
つまり、 一切 窓という物が無い部屋であった。
屋根で取り込んだ外光が、 ファイバーケーブル経由で 天井の四辺から部屋を照らす仕組みとなっているため、 比較的 明るさは確保されている。
しかし、 その閉塞感が解消されるものでは無かった。
部屋の東側の壁に、 唯一 廊下へ出るための開放部が、 小さな片開きの襖が有るだけで、 残る三面 天井と床も含めると五面が 完全に塞がれている。
一種 洞穴のような空間となっており、 実際 一年・昼夜を通して室温は一定に近かった。
部屋には、 空調設備等が一切備えられていなかったが、 空気に淀んだ感じは無く、 逆に他の部屋に比べても一段高い清浄感が感じられるくらいであった。
壁自体、 他の部屋に比べて かなり厚い造りとなっているようだった。
何ものか をそこに閉じ込める。 ・・・ 若くは外部の 何ものか から部屋の内部を護る。
まるで、 そのような意図の存在を感じさせる造りの部屋であった。
部屋に空いた唯一の解放部である 襖 がゆっくりと動く。
ほんの僅かに、 ゆっくりと ゆっくりと 隙間が開いていく。
木と紙で造られているはずの襖が、 分厚い金属製の扉に変化したかの様に 重々しい動きであった。
完全に閉まっていたはずの扉に、 ほんの少しだけ、 小指の先も通らないほどの空間が、 開いた。
結界 の端が、 ほどかれた。
・・・・・・・・・・・・
「 おどまりさん 」 と 「 こともりさん 」
二つで 一組の [怪異]
佐伯家に 古くから住み憑く 「 座敷童子 」 と呼ばれているもの
ミシルがそう聞かされていた存在。
二つの小さな影が、 ぼんやりとしたその姿が、 隙間の向こう側、 部屋の外側に佇んでいた。
二つのもの は、 上下に並んで じっと部屋の中の何かを見つめていた。
部屋の西側にある 「床の間」 と呼ばれる 一段床の上がった空間の隅に置かれている 高さ30cm程の構造物。
その構造物は、 回路の様な紋様が刻まれた包装材に包まれたまま、 大切に放置されていた。
ミシルの父親が、 仕事のために長期間日本を離れる事になった時、 ミシルを祖父の家に送り出す事になった時。
何かがあった場合に 役に立つ事もあるだろうと、 ミシルに預け 持って行かせた 「 ミスロド 」 と呼ばれるデバイスだった。
「 多感覚統合同期型遠隔操作デバイス [ MISROD (ミスロド) ] 」
イマジナリーの物理的な「肉体」として一般的に使用されるデバイスである。
基本的に、 イマジナリーは純粋な情報存在であるため、 物理的な作業を行うことができない。
また、 自分自身で見たり聞いたりすることはできず、 パートナーである「主観者」の感覚情報を共有することで、 外界を認識しているため、 パートナーから離れた場所で行動することもできない。
その 「イマジナリー」 を、 パートナーから離れた場所での動作を可能とする。 そして、 物理的な作業も行えるようにする。
そのために利用される一般的なデバイスであった。
各種センサーと、 移動脚、 マニピュレーター が一体となった。
いわゆる ロボット だ。
ミシルがこの家に引っ越してきて 約10ヶ月。
これ が そこに放置されてからも 10ヶ月。
全く 動くことが無かったそのデバイスの 包装材の表面の紋様上に 微かな発光が流れ出した。
何かを受信している。
その発光の流れに合わせるかの様に、 おどまりさんとこどもりさん の四つの目が震える。
襖の隙間が、 更にゆっくりと開き出す。
部屋の中の空気の振動が大きくなっていく。
そのデバイスを中心に、 長周期の振動の波が広がっている様だった。
包装材がデバイス本体の内部に引き込まれ 綺麗に収納される。
現れた本体の表面は、 木でできている様に見えた。
折り畳まれていた構造が展開・変形を始め、 高さ50cm程の人形の様な形状になった。
手足の短い木製のデッサン人形。
頭部には数十個の小さな孔が空いている。
その人形は、 二本足で立ち上がり 周囲を見回す様な動作をした。
人形の周囲に感覚情報が展開され 表面を覆っていく。
全体に細かな毛が生え、 シッポと耳が現れる。
マンガ風にアレンジされた 二足歩行する トラ縞の猫のキャラクターが そこに現れた。
リボンタイを付けたスーツ姿の執事風の出で立ちであった。
それは、 ミシルの父親 タケルの第二イマジナリー 「 ハヤカワ 」 だった。
小説投稿サイト 「カクヨム」にて、
並列ストーリー
「 つくもぶね [ 境外宇宙より来襲する超常天体に抗する3人の厄災級異才者と人造意識体たち ] 」
を 投稿中。
https://kakuyomu.jp/works/16818093073160539410




